世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年2月27日

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 筆者らがシニアフェローを務める米外交評議会は、Foreign Affairs誌の発行母体です。同誌は、かつて、米ソ冷戦の初頭、ジョージ・ケナンが対ソ戦略を提示した、いわゆるX論文(‘The Sources of Soviet Conduct’)を掲載しています。X論文は、対ソ封じ込めを説いたものですから、上に紹介した論文の「ロシア封じ込め――再び」という題は、それを想起させるものです。本論文は、「米国に対抗することを目的としているプーチン・ロシアを、同盟国とともに封じ込める」ことを呼びかけています。1月29日には米財務省が、「プーチンに近い個人・企業リスト」を明らかにし(昨年7月、議会が超党派で採択した関連法に応えたもの)、これから彼らへの制裁の是非が検討されることになっていますが、本論文はそれに思想的バックボーンを与えるものです。

 筆者のRobert Blackwillはブッシュ父子共和党政権下でインド大使等の要職、Philip Gordonはオバマ等民主党政権下で欧州担当の国務次官補等の要職を経ています。米国のロシア専門家Stephen F. Cohenはこの論文を、「共和・民主の超党派で、外交協会というエスタブリッシュメントの総意として打ち出してきた」ことに、大きな意味を見出しています(1月24日付The Nation)。

 ブラックウィルは、いつもカウボーイ的に勇ましいことを言います。しかし、米ロ関係がこれで、冷戦時代の米ソ対立のように、世界全体の安全に響くものとなるわけではないでしょう。というのは、ロシアが弱すぎるからです。一時底打ちしたかに思われたロシア経済は昨年11月、再び対前年同期比でマイナス0.3%の停滞様相を見せています。そして、この数年急増してきた国防費にはブレーキがかけられようとしています。

 米国の対ロ制裁の中で融資の制限とエネルギー開発協力の停止は、既に大きなボディー・ブローとなっています。この上、プーチンに近い実業家や企業の在米資産が凍結されたり、ドル決済や米銀行の口座使用禁止が実施されれば、ロシア企業は、対外貿易・投資を大きく阻まれます。

 ソ連末期に共産党の資金をベースに設立された「ロシア銀行」の在外資産の3分の1は米国にあると言われます。プーチンとその側近は古くから同銀行を重用していますから、それの凍結、あるいはプーチンの隠し資産関連情報の公開は、ロシア大統領選にも大きなダメージを与える可能性があります。従って、プーチンは基本的には抑制した対応を示してくるでしょう。

 本論文が提唱するいくつかの制裁措置は実行困難であり(例えばトルクメニスタンからカスピ海底を通ってアゼルバイジャンに天然ガス・パイプラインを敷設する等)、同盟諸国等の抵抗を呼ぶものもあります。本論文には日本、アジア・太平洋諸国の同盟国への言及が全くないことも、留意すべきでしょう。

 なお、本論文は、トランプ大統領の「奇妙な親ロ姿勢」に明示的に疑問を呈しており、ワシントンでトランプの対ロ宥和姿勢が孤立無援になりつつあることを示しています。1991年のソ連崩壊後、エリツィン政権が民主主義・資本主義への帰依を示したことで、西側の対ロ関係は協調が基調となりましたが、2014年のクリミア併合、2016年米大統領選へのロシアの「介入」で、これは対立へと決定的に反転しました。日本の対ロ関係・北方領土問題をめぐる対応も、これに合わせて組み換えが必至となるでしょう。

  
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