世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年2月26日

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 中国の台湾政策の基本は、台湾は核心的利益であり絶対に譲ることができない、台湾を取るためには台湾人の人心掌握から究極的には武力行使に至る硬軟両様で対応する、ということである。

 中国としては、当然、地震を機会に台湾人の歓心を買おうと努力をする。普段から使っている表現ではあるが「同胞」と呼びかけ、救援隊の派遣を申し出るなどしているが効果は全く上がっていない。張志軍も「両岸同胞の血は水より濃い」と言って、花蓮県知事に直接、救援隊の派遣を申し出た。台湾の世論調査では、自らのアイデンティティを台湾人であると答える割合が8割から9割に達しているものもあり、「両岸の同胞」などという言葉は心に響かない。台湾の民主主義が確固たるものになればなるほど、その傾向は強まる。中国メディアは、救援隊の派遣申し出を台湾に断られたことに不満を示しているが、そういうことも逆効果であろう。

 これに対し、日本の救援隊、支援、安倍総理から蔡英文総統宛のお見舞いなどは、大いに歓迎された。地震直後の台湾のシンクタンクの調査では「最も気遣ってくれた国」として75%以上が日本を挙げた、と報じられている。

 耿爽報道官が記者会見で言っている「4つの文書」というのは、1972年の日中共同声明、1978年の日中平和友好条約、1998年の「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」、2008年の「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」である。日中平和友好条約以降の3つは、いずれも1972年の日中共同声明の遵守・堅持を言っているので、結局、1972年の声明を見ればよいことになる。同声明には「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し…」とある。日本としては、理解、尊重するだけであって、中国の言い分を法的に承認するということではない。

 なお、首相官邸の公式ホームページに掲載されていた蔡英文総統宛のお見舞いから宛名が削除された。菅官房長官は、より広く台湾の皆さんへのメッセージとするため変更した旨の説明をして、中国の抗議を受けてのものではないと釈明している。しかし、真意はどうあれ、「誤った行動を直ちに正すよう求める」との要求に答えたように見えてしまう嫌いがある。

 もちろん、蔡英文総統の宛名を削除したからといって、台湾人の日本に対する好感度にも、中国に対する同胞意識の希薄化にも、変化があるとは考えられない。日台間では、1999年の台湾中部大地震以来、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、同年の台湾南部地震など、相互に援助を繰り返しながら、極めて良好な感情が醸成されている。震災という不幸な犠牲の上に、貴重な財産が築かれていると言えるかもしれない。

  
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