「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2018年2月23日

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小宮信夫 (こみや・のぶお)

立正大学文学部教授

立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。
警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。
代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。
公式ホームページは、「小宮信夫の犯罪学の部屋」http://www.nobuokomiya.com

 仮に二人の姿がマンションの住民や通行人に見られても、後ろからついて来た女児が自ら進んで車に乗り込むという状況の下では、女児が連れ去られているとは思われなかっただろう。

 実際、宮崎自身も、「先に立って階段を下り、ときどき後ろを振り向きながら、〇〇ちゃんの歩く速度に合わせて、5メートルくらいの間隔をおいて歩いて行った。間隔をおいたのは、人に見られたとき、自分が〇〇ちゃんを連れているという感じを与えないようにとの考えからである」と供述している。

神戸連続児童殺傷事件では
「ついてこさせる」状況を作り出している

いわゆる宮崎勤事件において、4番目の事件の連れ去り現場となった保育園の玄関前

 4番目の誘拐事件(東京都江東区)では、高層アパートの1階にある保育園の玄関前から女児が連れ去られたが、この事件でも、宮崎は、「〇〇ちゃんの歩く速さに合わせるようにして、7メートルくらい先を、間隔を取りながら歩いて、4号棟の東側道路に下りる階段を、歩道へと下りて行った」と供述している。

 こうしたケースでは、「知らない人にはついていかない」と教えても、ついていくことを防げない。なぜなら、警戒心が解かれ、親密感が増しているので、連れ去り犯は、すでに「知っている人」になっているからだ。

 神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)では、「ついていかない」どころか、逆に「ついてこさせる」状況が自然に作り出されている。

 「ここら辺に手を洗う場所はありませんか」と丁寧に尋ねた少年A(酒鬼薔薇聖斗)に対し、「学校にならありますよ」と答えた女児を連れ出し、殺害したわけだが、少年Aは、「女の子が先に歩き、僕はその女の子の後ろから歩いて行きました」と供述している。

 子どもが誘拐された事件のほとんどは、だまされて連れ去られたケースである。ほとんどの犯罪者は、強引に子どもの手を引いて連れ去るような愚かなことはしないのだ。宮崎勤事件も、神戸連続児童殺傷事件も、そうしたケースだったことを忘れてはならない。そうしたケースでは、「不審者に気をつけて」と連呼しても、防犯ブザーを持たせても、大声で助けを呼ぶ練習をさせていても、事件は防げない。

 にもかかわらず、こうした事実を知らない人の方が圧倒的多数である。そのため、子どもの安全対策や防犯教育は、現実とはかけ離れたものになっている。

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