「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2018年2月23日

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小宮信夫 (こみや・のぶお)

立正大学文学部教授

立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。
警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。
代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。
公式ホームページは、「小宮信夫の犯罪学の部屋」http://www.nobuokomiya.com

「景色」に注目すれば、犯罪を回避できる

 アメリカの作家マーク・トウェインは、「人がトラブルに巻き込まれるのは知らないからではない。知っていると思い込んでいるからである」と語ったが、防犯対策について、まさにそうしたことが起きている。人々は、犯罪について「知っている」と思い込んでいるのだ。しかし実際は、宮崎勤事件が起きた30年前から、対策は一向に進んでいない。

 日本とは対照的に、海外では「不審者」という言葉は使われない。使っても、役に立たないからだ。海外で行われていることは、「犯罪をあきらめさせる」環境づくり――犯行のコストやリスクを高くしたり、犯行のリターンを低くしたりして、犯罪をあきらめざるを得ない状況を作り出すことだ。このように、「なぜここで」というアプローチを取る立場を、犯罪学では「犯罪機会論」と呼んでいる。

 犯行動機を発見できなくても、犯行動機をなくせなくても、犯罪の機会(チャンス)さえ与えなければ、犯罪を行わせないことができる。重要なことは、犯行動機があるかないかは見ただけでは分からないが、犯罪の機会があるかないかは見ただけで分かる、ということだ。つまり、その場の「景色」に注目すれば、犯罪が行われる前に、犯罪を回避できるのである。

 宮崎勤事件や神戸連続児童殺傷事件のように、子どもがだまされて連れ去られる事件を防ぐには、子ども自身が、だまされそうになっていることに気づくしかない。しかし、人はウソをつくから、人を見ていてはだまされてしまう。だまされないためには、絶対にだまさないものにすがるしかない。それが「景色」である。人はウソをつくが、景色はウソをつかない。景色の中で安全と危険を識別する能力のことを「景色解読力」と呼んでいるが、それを高める方法については次回に。

  
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