2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年3月8日

 トルコは1月20日より、同国がテロ組織とみなすYPG(クルド人民防衛隊)を標的として、シリアのアフリンに対する軍事作戦「オリーブの枝」を実施している。トルコは同国のPKK(クルド労働者党)と提携関係にあるYPGには強い敵意を抱いている。米国はISIS打倒のためにYPGを主体とするシリア民主軍に武器を供与してきたので、トルコはこれを問題視してきた。トルコは、シリア民主軍の拠点であるマンビジュに対する攻撃も示唆しているが、マンビジュには米軍顧問団も駐留しているため、両国の軍事衝突の可能性が強く懸念されてきた。

 今回のティラーソンのトルコ訪問の目的の第一は、そうした事態を回避するためのリスク管理である。上記発言を見ても、トルコが国境の安全を確保する正当な権利に言及し、シリア民主軍への武器供給については、あくまでもISIS打倒の目的に限定されるとして、トルコ側の理解を得ようと努めている。マンビジュについては、質疑応答の中で「優先的に対処する」と述べている。

 他方、記者会見でティラーソンが強調しているように、米外交機関のトルコ人職員や米国民の逮捕、トルコにおける強権的支配は、米・トルコ間のもう一つの大きな緊張要因である。エルドアンは、クーデター未遂の首謀者とみなすギュレン師を米国が引き渡さないことに強い不満を抱いており、クルド人問題以外でも、対立は根が深い。

 YPGをめぐっては、最近、シリアでは構図を変化させ得る事態も見られる。YPGは、アフリンでのトルコ軍の攻撃に直面し、アサド政権に助けを求め、アサド政権支持派の民兵部隊がアフリンに入ったと報じられている。アサド政権と対立する米国としてはYPG主体のシリア民主軍への支援を打ち切る理由ができることになる。一方、ロシアはアサド政権を強く支援しており、トルコの対応次第では、現在は歩調を揃えているロシアとトルコとの間で摩擦が生じる可能性がある。

 なお、トルコ側は「オリーブの枝作戦」を、YPGから弾圧されている一般のクルド人を含む文民への激励になると位置づけている。YPGにはテロとして対処しつつ、シリアのクルド人が自治権を拡大することを認めるという妥協が成り立ちうる余地はあるように思われる。

  
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