前向きに読み解く経済の裏側

2018年3月5日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 円高が進んでいます。株価が下がっています。円相場と株価は、多くの場合連動しますが、なぜなのでしょうか。「円高だから株価が下がった」という解説がなされることが多いのですが、なぜ円高だと株価が下がるのでしょうか。

(LeoWolfert/iStock)

円高は景気に悪いが、最近では影響は限定的

 円高は、景気に悪影響を及ぼします。「円高で輸出企業が持ち帰るドルが安くしか売れないから」という説明がなされる場合がありますが、それは違います。日本の輸出と輸入は概ね同額ですから、「輸出企業が持ち帰ったドルが安くしか売れない」効果と「輸入企業が支払いに使うドルが安く買える」効果が打ち消しあうからです。

 円高が景気に悪いのは、輸出企業がドル建ての輸出価格を引き上げることで輸出の数量が減り、輸出企業の生産が減るからです。消費者が安くなった輸入品を買うために国産品の売れ行きが落ち、国内生産が減る、ということもあります。

  理論的には、「円高で輸入物価が下がり、消費者物価指数が下がり、デフレが再発してしまう」という事も考えられますが、それで景気が悪くなるとも思われません。困るのは日銀くらいでしょうから、気にしない事にしましょう(笑)。

 理屈は以上なのですが、最近では為替相場の変動が景気に与える影響が小さくなっている可能性があります。アベノミクスで1ドルが80円から120円になったのに、輸出数量は増えず、輸入数量は減りませんでした。その理由については様々な見方がありますが、いずれにしても円安で変化しなかった輸出入数量は円高でも変化しない可能性が高いでしょう。

 こうしたことを考えると、「円高だと景気が悪化するから株価が下がる」という経路は、あまり強い影響力を持たない模様です。

上場企業の収益は悪化

 景気は悪化しなくても、企業収益は悪化する可能性があります。輸出企業が持ち帰ったドルが安くしか売れない分は、輸出企業の収益を悪化させるでしょうが、輸入企業が安くドルを買えた分は消費者物価の値下がりという形で消費者に還元される部分があるからです。

 今ひとつ、日本企業は海外に巨額の資産を持っています。たとえば海外子会社からの配当金として受け取ったドルが安くしか売れなければ、親会社の決算は悪化するでしょう。これについては、各期の損益のみならず、企業の保有する資産の価値が下がるわけですから、その面からも株価にはマイナスでしょう。

 上場企業という観点で言えば、輸出企業の多くは上場企業である一方で、輸入品を使っている企業は非上場の中小零細企業も多いので、「上場企業の収益」はこの面からも悪化する可能性が高いでしょう。

 こうしたことを考えると、「円高で上場企業の収益が悪化して株価が下がる」という経路は、ある程度働く模様です。しかし、それだけでは為替と株価の連動を説明するには弱いですね。

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