2024年4月20日(土)

栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2018年3月9日

「台湾独立支持者」のレッテルを貼って中国市場から締め出す

 中国で活躍している台湾人ミュージシャンやタレントも少なくなく、上に挙げたラップ番組には台湾人ラッパーも多く出演した。また「台湾独立支持者」のレッテルを貼られて炎上したタレントや作品が、見せしめ的に中国市場から締め出されることも度々あり、中台間のエンタメの壁の平坦化に一役かっている。

 公用語が同じ中国語(北京官話)なだけに、言葉の壁もない。中国人の彼女や彼氏と恋愛をして、身近な台湾人タレントの中国での活躍を見て、タオバオなど中国のネットで消費する。そうした生活の中で大きなリスクを伴い得る「独立」という選択肢の墨は、将来的に益々薄まっていくかもしれない。

MikhailMishchenko/iStock

 中国から嫁いできた「大陸新娘」と呼ばれる女性も台湾には多くいて、その子どもたちは台湾人でありながら、中国に高い親和性をもっていることもある。近ごろ、アメリカの研究者による「台湾アイデンティティーの高さから見ても、将来的な中台統一は不可能」といった言説を目にしたが、筆者からすると甘い観測では?と思えてしまう。

「台湾は台湾」と尊重したい日本人が今すぐにできること

 「共同記憶」と「使用言語」は国家的アイデンティティー形成に関わる大事な要素だが、戒厳令下に生まれて主権・民主・自由をみずからの手で勝ち取ってきた上の世代に比べ、「天然独」の立ち方はどちらにも容易に振れるニュートラルさを孕んでいる。

 年を取れば取るほど、かつてみたテレビ番組や歌の話で盛り上がったり、同時代性のあるギャグやネタが通じる同世代とは打ち解けやすいものだ。彼らが社会の中核を担う40代になるまでに、台湾の政府や社会がどれだけの夢を台湾の若者に見させることができるのかを、注意深く見守っていく必要があるだろう。

 最後にひとつ、「台湾は台湾」ということを尊重する日本人として、今すぐできる事柄がある。それはなにか?

 中国を呼ぶときに「中国大陸」「メインランド」といったあいまいな呼び方をせず、「中国」「台湾」とはっきり呼びわけることだ。
 

栖来ひかり(台湾在住ライター)
京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』


  
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