2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2011年2月1日

編集部:中東では、そもそもなぜチュニジアのような長期政権が可能なのでしょうか?

 今回崩壊したベンアリー政権は23年間続きましたが、その間、必ずしも政権批判が少なかったわけではないようです。同様に、中東国家には、内部批判を受けつつも長期政権を保つ国があります。中東国家が長期政権を保てるのは、なぜなのでしょうか?

――中東、特にアラブ諸国では、政府に限らず、政党も、企業も、あるいはNGOまでもが、最高権力者が全権を掌握し、トップダウンで決定や指揮を行うことで共通していました。最高権力者の周りで、親族が権勢を振るうことも当然とされています。

 一旦権力を握った者がそれを平和裏に受け渡していく民主的制度が定着しておらず、自由な批判や競合が行われ難いというのが現状です。このような政治文化を克服しようとする動きも以前からありますが、しばしば運動自体が、ある種独裁に陥って分裂することも多く、結集できていませんでした。なぜそうなってしまうのか、というのは大変な難問で、一言では答えられません。結局アラブの根深い政治文化には勝てない、というのが、民主化を目指す人々の苦い結論になっていました。

チュニジア政変から始まったデモは中東各国へ飛び火し、次第に勢いを増している(編集部作成)
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 しかし若年層による、衛星放送、携帯電話、ショートメール、ユーチューブやブログやツイッターを利用した抗議行動への結集は、新たなタイプの政治運動を出現させました。そして、チュニジアで大衆蜂起によって政権が倒れる実例を目のあたりにしたことにより、「非民主的なのはアラブの不変の政治文化で、どうせ何をやっても変わらない」という諦めが打ち破られた、と多くの人が感じたようです。これまでの、結果をもたらすことができない民主化運動からは、しばしば「アメリカが政権を支持するからいけないのだ」「イスラエルが裏で政権を支えている」といった、しばしば陰謀論にも近い、他人に責任を転嫁する議論が発せられたのですが、これは自らの能力への諦めの裏返しでした。今回は米国やイスラエルを非難する声やスローガンはほとんど見られません。チュニジアの革命は、アラブ諸国の市民に自信を回復させたと言えます。


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