2024年4月25日(木)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2011年2月5日

 日本では今年4月の新年度から新成長戦略が本格実施される運びとなっている。しかし、欧米諸国は大きな経済構造改革に踏み込んでおらず、経済への対症療法が続いている。EUの金融安定化メカニズムや欧州主要国の思い切った財政赤字削減は金融市場を支え、財政健全化にはつながるが、積極的な経済構造改革策だとまではいえない。

 では、欧米諸国に求められる経済構造改革とは何かだが、ポイントがいくつかある。今回の金融危機の原因となった米国の金融バブルと日本の不動産バブル崩壊を重ね合わせると、米国とスペインなど一部の欧州諸国では企業・金融機関が不良資産と過大債務を減らすバランスシート調整策がまず不可欠だ。

 その上で、財政金融政策に頼らない規制緩和などによる企業活性化策や新たな成長産業の育成などの経済活性化策が求められるということになる。これはオバマ大統領が1月25日の一般教書演説で技術革新や法人税引き下げなどに言及した中身そのものだ。

均衡の取れた経済発展に努力せよ

 一方、新成長戦略を実施しようとしている日本も褒められたものではない。財政赤字は主要国最悪だが、財政健全化は進まない。デフレが続いているが、日本の金融政策だけが世界経済の動きを無視して経済と金融のバランスを著しく崩してよいということにもならない。

 しぶといデフレが続いている国内経済状況では、資源価格が上がっても金融引き締めに転じることは考えられない。しかし、デフレを脱却するためにともかくインフレにするほどの大胆な金融緩和策を採るべきとの意見は、もはや世界経済や市場の現状を見据えておらず、非現実的だ。また、どの程度の金融緩和が必要か分からないままインフレターゲットを主張するのも同じで、どのようなマイナスがあるかを見極めないのはあまりに浅薄だ。

 こうなると、日本も経済活性化を図るためには経済構造改革をさらに推し進めることが優先課題になってくる。そこで、新成長戦略が大いに期待されるのだが、過去いくつも描かれただけで実施されなかった成長戦略があったことを踏まえると、今回の新成長戦略も内容は素晴らしいがともかく実行しないことには意味がない。日本の問題は、経済課題の処方箋が分からないことではなく、処方箋を実行しないことにある。

 新たな経済構造改革は既得権の切捨てなど既往の政策を大胆に取り止めなければできない。菅首相のリーダーシップが問われている。リーダーシップは、新たな成長戦略を実行することだけでなく、切り替えなければならない旧来の政策や予算を大胆に切り捨てることができるかにも発揮されなければならない。

 足元の資源価格高騰は米国など先進国の経済金融政策のあり方に大きな再考を迫るものであり、世界経済の安定成長のためにも主要先進国は経済構造改革を軸とする成長政策に踏み込んでいかなければならない。しかし、そこで大事なのは改革の内容だけではなく、果断に実行するリーダーシップもある。それは、米国ではバランスの取れた政策を追求して基軸通貨国の責任を果たすことだし、日本では政策の選択と集中だということは今見たところだ。経済は放任するままでは必ずしも均衡せず、日本も他の主要先進国も経済の均衡の取れた成長への努力が一層必要だ。


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