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2011年2月7日

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大手企業が「こんなものを作れないか」と列をなす、下町の小さな町工場。
清田製作所は、半導体検査装置プローブなど「世界唯一」を開発してきた。
社長の清田茂男は、赤字になろうと時間がかかろうと、依頼を受ける。
局地戦で一歩退く「負けるが勝ち」を貫き、得られた信頼で大事を成した。
言葉尻の優位や目先の利益にこだわらず、堂々と歩めるのはなぜなのか。

 「一歩退くとは、私に言わせれば二歩前進です。一時的なことや皮相的なことで騒がず、『引き受けます』と言って実際にやれば、相手も私を信頼してくださいます。自分のことをオーバーに言う人が、仕事をしてみたら大したことがなかったというのは、よくある話です」

 打ち合わせ、仕事の依頼、交渉ごと。相手との言葉のやりとりは、あらゆる場面に発生するが、絶対に自分が言い負けたことにならないように強弁する人は結構いる。相手の言い分を受け入れる時ですら、自分が高みに立とうとする。そんな「局地戦の勝利」にこだわる人に大きな仕事はできないと、清田茂男は考えている。

赤字になっても
時間がかかってもいい

清田茂男(きよた・しげお)
清田製作所代表取締役。1927年生まれ。12歳で北海道から上京してプレス工場に、後にハーモニカ工場などに勤める。63年に独立して清田製作所を設立。世界最高水準の半導体の検査装置「コンタクトプローブ」などを開発してきた。 写真:田渕睦深

 清田は東京都北区の町工場、清田製作所の創業社長。昭和の香りただよう古びた機器が座る従業員13人の小所帯だが、大手の下請けはせず、83歳の清田が今も先頭に立って自社製品を開発する。主力はコンタクトプローブ。肉眼では髪の毛ほどの針にしか見えないが、実はパイプ状になっており、中に細い芯棒とバネとボールが入っているから驚く。半導体に電流が正常に流れるかなどを調べるための道具だ。1000分の1ミリの精度が求められ、当初その精度を実現できたのは一人の英国人技術者だけだったが、清田がそれに続き、しかもはるかに性能が優れたものを作った。その後もプローブの画期的な改良に成功。世界でここにしかできないものを生み出す、スーパー町工場だ。

 清田は、頼まれたら引き受ける、言い合いになろうものなら退くと、局地戦で一歩譲る「負けるが勝ち」を続けてここまでになった。

 「頼まれたり、問題を解決してくれと言われたりしたら、赤字になっても時間がかかってもいいから、行動することが先です。私は自分のレベルが低いと考えていますから、何でもやることでレベルを上げたいという希望があります。それで本当にできてしまうと、おかげさまで『頼めばやってくれる男』となります」

 プローブを開発する前、清田の主力製品はレコード針だった。高性能の針は先端にダイヤモンドを装着するが、そのための加工は精密で、「よそでは頼めない」と清田に持ち込まれていた。ある時、大手電機メーカーから清田に試作品の製造依頼が舞い込んだ。しかし納めた針をレコード盤に乗せると、針が飛んでしまうトラブルが発生した。清田は「図面通り作りました」、メーカーの担当者は「図面通りでもダメなものはダメだ」と、責任問題の様相を呈した。

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