2024年4月25日(木)

中国メディアは何を報じているか

2018年3月16日

自媒体はスルー、論調割れる香港メディア

 ところで中国メディアといえば、自媒体という個人メディアのような個人やグループ、会社などの運営する新興メディアの勃興が目覚ましい。独自のサイトを持たず、SNS上の公式アカウントなどで情報発信するものが多い。ただ、自媒体はこういう敏感なニュースは基本的にスルーしている。書きようがない、あるいはそもそも興味がないというところだろう。

 では中国の民意やメディアの書けない裏話がどこに載るかというと、微博(ウェイボー)といったSNS上に隠語をちりばめたものが載るか、あるいは香港メディアか華字メディアになる。華字メディアというのは、中国語メディアだが海外に拠点を置いているものを指す。

 香港は一定の言論の自由があるので、政権の裏話や現状への批判も展開されている。裏話については玉石混交で鵜呑みにはできず、取り扱いには注意が必要だが。ただ、ひとくくりに香港メディアと言っても、中国メディアと論調の変わらない親中的なものから、嫌中的なものまでさまざまある。大きな流れとしては、中国系資本が影響力を強めており、親中的な論調に転じるものが増え、内容も抑制的になりつつある。

 香港メディアの代表格に「明報」があり、12日に「首都の密談:党内にはかつて異議があり、二中全会で思想統一をした」という記事を掲載している(https://news.mingpao.com/pns/dailynews/web_tc/article/20180312/s00013/1520791870982)。それによると、北京消息筋の話では中国共産党中央が2月に憲法改正の建議を公開するまで、党や政府、軍の絶対多数の副部級(公務員の階級の一つで副リーダー級などの高級幹部をさす)の役人は事情を知らなかったという。また、党内の異議は国家主席の任期の制限撤廃に集中していたという。

 香港最大のメディアグループである東方メディアグループは、明報に比べ、より親中的だ。そのニュースサイト「東網」では、嫌中派の香港メディア「りんご日報」が改憲を独裁強化だと批判しているのを無責任な飛ばし記事だとして批判している(http://hk.on.cc/hk/bkn/cnt/commentary/20180315/bkn-20180315000434386-0315_00832_001.html)。

 かなり親中国的なものにフェニックスニュース(鳳凰)がある。人民解放軍の出身者がオーナーで、大陸メディアと言ってもいいくらいだ。ところが、鳳凰網が「毎回の投票は歴史に凝視されている」と題した社説を7日に掲載し削除されたとアメリカに拠点を置く華字メディアの「多維新聞」は報じる(http://news.dwnews.com/china/news/2018-03-11/60045087.html)。社説は、人民代表大会に参加する代表らに熟考を促す内容だったという。親中ではあるが現政権とは距離があるという立ち位置の表れだろう。

 華字メディアにはいろんなものがあり、論調もさまざまだ。多維新聞の論調はニュートラル。中国で邪教として弾圧されている法輪功系の「大紀元」は、徹底的な体制批判を展開している。改憲について大紀元は「中共の憲法改正は成功したが、評論家は習近平の危ない局面は終わっていないと指摘」という記事を掲載している(http://www.epochtimes.com/b5/18/3/14/n10218456.htm)。在米の華人評論家の話として、政権や王朝の崩壊と滅亡の要素を今の中国が満たしており、現政権は危機に面していると指摘している。大紀元の報道には面白いものも多いが、その宗教的側面や立ち位置を考えて、かなり引き算して読む必要がある。

 シンガポールの中国語メディアも中国大陸のニュースを積極的にウォッチしている。華字メディアは香港メディアにみられる自己規制も少なく、自由な議論がされているが、まゆつば物の内容も多い。

 多言語展開のメディアの中国語版でいうと、VOAの影響力の大きさは無視できない。ほかにもラジオ・フリー・アジア(RFA)、BBC、ロイターをはじめ、日本メディアも中国語版を運営している。ただ、影響力の大きいものほど中国では閲覧できなくなる。

 以上みてきたように、メディアは実にさまざまある。ただ、共産党にとって敏感な話題になればなるほど、中国人が何を考えているのかをそこからつかむのはなかなか難しい。
 

  
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