変わる、キャリア教育

2018年3月20日

»著者プロフィール
閉じる

福島創太 (ふくしま・そうた)

1988年生まれ。教育社会学者。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発等に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学し、修了。現在は株式会社教育と探求社で、中高生向けのキャリア教育プログラムの開発に従事しつつ、同大学院博士課程に在学中。近著に『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか―キャリア思考と自己責任の罠』

VUCA時代において求められる自律的な人材に

 そしてさらに大きく、これからの社会を生きるビジネスマンにとって普遍的な価値がある。筆者は、企業人が学校教育に関わることで得られる価値の中で次の価値が何よりも大きいと考えている。それは社員自身を自律的な人材へと育てていくという効果である。VUCA(Volatility – 変動性、Uncertainty – 不確実性、Complexity – 複雑性、Ambiguity – 曖昧性 )の時代において求められる人材とは、主体性をもち、激しい変化に対しても迅速に柔軟に対応できる、ときには自分自身を変容することもできる、そしてこれまでになかった価値を自ら創造していける、そんな自律的な人材である。

 2020年に改定される学習指導要領には「主体的、対話的で深い学びの実現」が掲げられているが、これはそうした人材の育成を想定したものなのである。学校ごとの程度の差は非常に大きいが、「正解のない問いへの取り組み」や「グループで力をあわせて企画を考える学び」といった、いわゆるアクティブ・ラーニングやプロジェクトベースドラーニングと呼ばれる取り組みが、いま学校ではどんどん進んでいる。例えばそうした場に企業が、新商品開発や事業開発といった自社の課題を投げ込み、それに取り組んでもらう、そしてそこに企業の人材が入り、ファシリテーターの役割を担う場合、どういったことが起こるだろうか。

 まずは中高生がそうした取り組みに本気で向き合っていくために、モチベーションの醸成をしなければならない。同じ企業に所属する部下や後輩であれば、少なくともその会社や部署に所属しているということで、指揮命令系統が存在したり、社員は給与をもらっている以上働くべき、という前提が成り立つ。しかし教室では必ずしもそうはいかない。「授業なんだからやろう」、「勉強しないと成績が悪くなる」といったコミュニケーションは当然可能だが、そうした外発的動機づけで、彼らから創造的なアイディアや意見は決して生まれてこない。あるいは「いまのうちにこういうことを学んでおかないと将来困るよ」というのも同様だ。中高生はある意味純粋で素直な存在なので、脅迫や利害では本質的には動かない。もし動いたとしても、「大人が想定する『正解』を当てにくるゲーム」がそこから始まり、同様に価値の創造にはつながりづらい。もちろん、中高生の本質的な成長にもつながりづらい。そこで問われるのは大人の本気とオープンでフラット、安心できる場の設計である。

「なぜあなたはこの仕事をしているのですか?」

 企業の方を学校に連れて行ったときに、こんな光景を目にしたことがあった。「なぜあなたはこの仕事をしているのですか?」と中学2年生に企業人が問われていたのだ。中学2年生としては、与えられた課題になぜ取り組むのかと純粋に悩んだ結果でてきた問いだったのだろう。もしあなたがこう問われたら、どう答えるだろうか。あるいはこんな質問をした高校1年生もいた。「あなたが最も企業理念を体現した仕事について教えてください」。企業から出された課題に真摯に取り組み、その企業らしさや、その企業が実現したいことを熱心に探求するなかで出くわした問いだった。この問いに対して、中高生が納得し、「それなら自分も前向きに取り組んでみよう!」と思えるような表現を用いて答えることができるだろうか。

 この問いにまっすぐ答えるためには、答える側の自己内省が求められる。就職活動の際に熱心にしたっきり棚に積み上げ続けている自分自身の志や会社で実現したかったこと、社会に対する理想を改めて棚卸しし、自分の言葉としてそれを語っていくことは本人のキャリアだけでなく、その方のパフォーマンスの最大化を通して企業に大きな価値を生むことだろう。自分が会社や社会の常識、慣習にとらわれはじめていたことにも気づけるかも知れない。あるいは、会社の代表として自社について語るような場面では、自分が携わっている業務を離れて会社の取り組み全体を俯瞰し、ビジネスの全体を構造化して捉えて言葉を紡ぐことが求められる。そうした経験の中でメタ認知力なんかも身につくかも知れない。

関連記事

新着記事

»もっと見る