2024年4月25日(木)

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2011年2月9日

 「平山先生にとって絵画制作も文化財保護も、その活動当初から同時のものでした。平山先生は被爆し、また貧しい画学生から有名になっていきましたので、人間の苦しみを深く知り、亡くなるまでヒューマンでユーモアに満ちた生涯を送られました。それが若手の育成の熱意にも繋がっていたのでしょう。平和を獲得するための身近の世界の写生が、世界規模に繋がることをご存知だったと思われます。《仏教伝来》はその過程での一つの結晶でした。アジアへ取材に行くと遺跡に夢中になり、その遺跡の運命にも心惹かれました。多くの人が描写に留まっているところを、先生は人類共通で受け継ぐものをそこに発見したのでしょう。そしてそれを絵にしたのです」。

 そうか、それで《バーミアン石窟・アフガニスタン》には破壊される前の大仏が描かれているのだな。では平山郁夫亡き後の文化財保護はどうなるんだろう?

平山郁夫が次世代に残した課題

 「文化財を保存することは、価値を再認識するという一つの創造行為です。平山先生はアジアの何処の国に行っても有名です。人を導くには、高い精神が必要なのです。これまで日本でも文化財保護の運動はありましたが、バラバラに行われていました。バーミヤン大仏破壊をきっかけにそれをまとめたのが平山先生でした。先生が外務省、文部省、我々などを初めて共通のテーブルにつけたのが2006年です。ウズベキスタンには平山先生が私財を投じて創建された文化遺産の調査・研究・研修・展示施設「国際文化キャラバンサライ」があります。アフガニスタンにもそのような施設を創建したいと先生は力説されていました。平山先生が私財をなげうって生涯をかけた文化財保護には様々な提言が含まれています。そこに差し出されている壮大な課題を、我々は引継ぎ答え、次世代に繋げていかなければならないのです」。

 日本は平和だけれど、確かにアジアは未だ戦争に塗れている。しかし世界中が平和になったとしても、価値を再認識しなければならない。生きることって大変だ。先ずは展覧会に行って、自分達のルーツである作品に深く浸ってみようではないか。難しいことはその後でいいと僕は思う。

平山郁夫氏の作品を、思い思いに眺める人々(写真は、平山氏の旅の軌跡を記した序章の部屋)

文化財保護法制定60周年記念  特別展「仏教伝来の道 平山郁夫と文化財保護」
2011年1月18日(火)~3月6日(日)
東京国立博物館 平成館 (上野公園)
開館時間 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日
観覧料金 一般1500円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料
交 通 JR上野駅公園口・鶯谷駅より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分
お問い合わせ 03-5777-8600
展覧会ホームページ
http://www.asahi.com/hirayama/ (朝日新聞社)
http://www.nhk.or.jp/event/hirayama/ (NHK)

 
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