足立倫行のプレミアムエッセイ

2018年3月25日

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足立倫行 (あだち・のりゆき)

ノンフィクションライター

早大政経学部中退後、週刊誌記者などを経てノンフィクション作家に。近著に『血脈の日本古代史』(ベスト新書)『倭人伝、古事記の正体』(朝日新書)。

 被害防除のためサバクトビバッタの生態研究にを生涯を捧げようと決心した前野さんが、現地研究者から敬意を込め「ウルド(○○の子孫)」のミドルネームを贈られたのは、ある意味では当然のことだったと言える。

 「私は肥満児でずっと除け者でした」

 前野さんは生い立ちを語った。

 「仲間から外れ足元を見てて、虫に興味を持った。ソフトテニス部も補欠、大学(弘前大学)も一浪、大学院も一度落ち、長い間ブザマな人生でした。でも昆虫好きのせいで、サバクトビバッタを長期飼育することになり、その延長線上でモーリタニアに行けた。尊敬するファーブルも言ってます、チャンスは迷うことなくその場で捕まえろ、と」

 3年の海外体験で研究論文を6本書いた。

 私の取材時点で前野さんは、毎年何カ月かモーリタニアに出かけデータ収集をしつつ、長期計画で論文執筆に取り組んでいた。

 10年間で論文は10本。群生相の着地場所の好みなど、野外のバッタの活動の法則性が解明できれば、人類史上誰もなし得なかったサバクトビバッタの被害の防除を、秋田生まれの日本人が成し遂げるかもしれないのだ。

 「現状の殺虫剤防除は環境も破壊しますから、生態学的に防除できれば革命的ですね?」 

「ええ。でも、安全・有効な防除法が見つかっても、絶滅まではしません。害虫も数が減れば只の虫、共存すればいいんです」

 こうした感性の研究者に、今回時代のスポットが当たり、私は改めてよかったなぁと思っている。

  
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