2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年4月2日

 ロシアによる暗殺事件は、2006年にロンドンでロシアの反体制活動家アレクサンドル・リトビネンコがポロニウムで殺害された件など、過去にも数多く見られる。しかし、今回の件は、化学兵器に相当するノビチョークが用いられた可能性が高く、それが、人口4万人を超えるソールズベリーの街の中で実行された。政府の関与により他国で殺人を犯すという国家主権の侵害以上の、安全保障上の脅威である。メイ首相は、ロシアの工作員によりスクリパル親子に対しノビチョークが用いられた証拠があるとして、ロシアに対しノビチョークに関するすべての情報を化学兵器禁止機関(OPCW)に提出するよう求めた。ロシアによる化学兵器禁止条約に違反したノビチョークの保有について、解明されなければならない。

 3月15日の仏独英米首脳の共同声明は「第二次世界大戦後初めて欧州で神経ガスによる攻撃が行われた」と非難している。上に紹介した3月22日のEU首脳の共同声明も、今回の事件を安全保障上の重大な脅威と位置づけ、ハイブリッド脅威への対処能力を強化するなど、方向性としては正しいものを打ち出している。EUは、22日の首脳会議で、在モスクワEU代表部駐在大使を協議のため一時召還することを決めた。

 しかし、ロシアによる西側に対する主権侵害や安全保障上の威嚇を抑止するために、実効性のある措置をEUとしてとれるかどうかは疑問がある。実効性のある措置としては、プーチンの取り巻きに対する金融資産の差し押さえなどが考えられる。しかし、例えば、ドイツのマース新外相は、ソールズベリーの襲撃事件は英ロ間の2国間問題である、と述べている。英国自身は、メイ首相が金融制裁の余地に言及しているが、そうしたことには踏み込めるか否か、まだはっきりしない。しかし、外交官追放で終わりにするには、事柄が重大に過ぎ、さらなる追加措置をとるべきであろう。

 上記共同声明が言っている、化学、生物、放射線、核関連のリスクやハイブリッド脅威への対処能力強化は、欧州の安全保障に必要な、当然なすべきことであろう。

 ある国が外国に居住する個人に対する暗殺を行うというのは主権侵害である。今回の件は、国際秩序への挑戦であるとして、厳しく対応するべきものである。

  
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