イノベーションの風を読む

2018年4月1日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

「彼」がデジカメを再発明する?

 今日、米国のある有名な会社の新製品発表のスピーチ原稿を極秘に入手した。どうやら「彼」は健在で、6月の開発者向けのイベントでこんなスピーチを行うらしい。

 僕が手に持っているのが何かわかるかい? これは新しいデジタルカメラなんだ。うーん、みんな、ちょっとガッカリしたみたいだね。まあ、少し話を聞いてほしい。そうすれば、きっとこのカメラが欲しくなるはずだから。

 

 みんな、写真を撮るのが大好きだよね?

 楽しい旅行とか、自分の子供が遊んでるところとか、結婚式とか、そんな残しておきたい思い出の写真は一眼レフで撮っているかな。ちょっと面白いものを見つけたときとか、美味しそうなパンケーキとか、そんな写真はスマートフォンで撮ってすぐに共有してるよね。もう、ポイント・アンド・シュート(コンパクト・デジタルカメラ)は、あまり使わなくなっちゃったかもしれないね。

 ちょっといくつかの写真を見てほしい。(スクリーンに写真が映る)

 いい写真だろう?

 これはサッカーをやってるところだね。かなり遠くから撮ってるようだけど、一生懸命な表情が可愛いよね。まわりも綺麗にぼけて、子供がすごく引き立ってる。こっちはボールを蹴る瞬間をうまく捉えてる。 

 まるでプロ見たいだろ? サッカーしてる子供も、写真も。

 この花嫁の写真はどうだい? 髪の毛や肌、そしてドレスやケープの、それぞれの質感の違いがよくわかるだろ。光の柔らかさがいいよね。こっちもいいね。これは逆光だね……。

 写真って本当にいいね、そう思うだろ?

 こんな写真を撮るのは、スマートフォンだとちょっと難しいかもしれない。一眼レフで撮り方を勉強して練習すれば、誰にでも撮れるようになる。少し高価なポイント・アンド・シュートでも、頑張って細かい設定をすれば撮れる写真もあるかもしれない。でも、それじゃポイント・アンド・シュート(狙って撮るだけ)って呼べないよね。

 実は僕たちは、ほんとうのポイント・アンド・シュートをつくったんだ。さっき見せた写真は、ぜんぶこのカメラで撮ったんだ。それも細かい設定なんてしていない。

 写真を撮っているところを見てほしい。(スクリーンにカメラの操作の様子が映る)

 液晶の画面に子供が小さく写っているね。こうすると、ほら、顔がアップになっただろ。そしてこんな感じで周囲をぼかすことができる。それでシャッターを押せばいい。こっちは、走ってる子供を追いかけてる。こうするだけで、ちゃんと子供にピントが合ったままになる。ボールが転がってきたから、こうすれば連続して写真が撮れる。この写真はその中の一枚なんだ。

 こんな小さなカメラで、まるで一眼レフで撮ったような写真が撮れるんだ。それもすごく簡単だろ?

 誰でもこんな写真が撮れるようにするには、ユーザインターフェイスを直感的にすることが重要なんだ。みんな、カメラを使いこなすために勉強や練習なんてしたくないよね。簡単にすごく良い写真が撮れるカメラが良いカメラだと思うだろ?

 テクノロジーは、難しいものをつくるためのものじゃないんだ。

 難しいことをすることが楽しい人もいるだろうけど、ほとんど人は、すごいことを簡単にやってくれることを望んでいるはずだ。写真を撮るときに、解像度とか、ISO感度とか、ホワイトバランスとか、そんなことを考えなきゃならないなんておかしいと思わないかい? 写真を撮ることに集中しなければならないとしたら、せっかくのその大切な時間を楽しむことができなくなってしまうじゃないか。

 面倒なことは、プロのカメラマンが撮った写真を学習したディープラーニングというAIに任せておけばいい。どうだい、少しはこのカメラが欲しくなったかい?

 でも、このカメラはそれだけじゃないんだ。

 みんな、スマートフォンで写真をとってSNSとかで共有してるけど、家族の写真や、プライベートなイベントや旅行、それから日常のスナップなんかもたくさん撮ってるよね。そんな写真はどうしてるのかな?

 コンピュータや、もしかするとメモリーカードに入れたままで、あまり見る機会がないんじゃないかな?

 家族で写真を見ながら思い出を語り合ったりする、そんな幸せな時間がなくなっちゃったんじゃないかと思うんだ。子供が大きくなったときに、それまでの写真をどうやってプレゼントするんだい? お父さんやお母さんの写真をどうやって引き継ぐんだろう。

 そんな大切な写真は、コンピュータやメモリーカードに入れたままにしてはいけない。クラウドに置いておけば、スマートフォンから、いつでもどこでも見ることができるし、家族で共有することだって簡単にできる。でも、デジタルカメラで撮ったたくさんの写真をコンピュータにダウンロードして、それからクラウドにアップロードするのは面倒だよね。

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