2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年2月15日

 中国のインターネット上では「次は中国の番だ」「エジプト軍は発砲しなかった。彼らは(天安門事件で発砲した中国軍とは違う)人民の軍隊だ」などと政府批判の書き込みが相次いだ。中国当局はさっそく、ネット上に流れる政府批判を次々と削除。特にエジプト情勢が緊迫化した先月末からは中国版ツイッターでエジプト情勢についての発言を検索不能にする措置を取っている。

中国鉄道相、突然の解任

 その一方、共産党政権とその宣伝部門はさっそく、エジプト革命を強く意識したと思われるようないくつかの挙動に出た。

 エジプトのムバラク大統領退陣の翌日の2月12日、新華社は、中国鉄道相の劉志軍が「重大な規律違反容疑」で取り調べを受けていると報じた。劉氏がいつから取り調べを受け始めたかは定かではないが、2月12日における「取り調べ」ニュースの意図することは明らかである。

 汚職高官の一人を引きずり出すことによって、中国共産党政権とムバラク政権との違いを示し、腐敗に対する民衆の不満を和らげようとしたのだ。

 その翌日の13日、新華社はまた一つの珍ニュースを報じた。中国の温家宝首相は最近、十数名の一般労働者や農民を北京の中南海にある国務院会議室に迎えて、経済政策に対する彼らの「意見」に耳を傾けたという。報道によると、会見が実現されたのは1月25日の出来事であったというのが、1月25日の出来事が2月13日になって「ニュース」として報道されたことの理由は火を見るよりも明らかである。

反政府運動の波及を恐れる中国共産党

 要するに、中国共産党政権が民衆の声をいかに大事にしているかとの印象を植え付けることによって、エジプト革命を受けての国内の動揺を抑えつけようとしているのだ。情報の操作による抑えつけはここまでくると、もはや苦心惨憺というべきものであるが、それは逆に、エジプトの反政府運動が中国に飛び火してくることを、北京の指導部が極端に恐れていることの証左ではないか。

 つまり、北京の独裁政権にとっては、チュニジアとエジプトでの出来事は決して対岸の火事ではなく、彼らは本気で、イスラム世界での反政府運動が中国に波及してくることを恐れているのだ。

 逆にいえば、彼らが恐れていることは現実になる可能性も十分にあるのだ。もし中国国内の物価の上昇が今まで以上に深刻な問題となった時に、あるいはインフレ退治のための金融引き締めで不動産バブルが崩壊してしまった時に、そしてその結果として失業がさらに拡大して民衆や若者たちの不満がさらに高まった時に、チュニジアやエジプトで起きた革命が中国で起きないという「保証」は、一体どこにあるのだろうか。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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