オトナの教養 週末の一冊

2018年3月30日

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癌やアルツハイマー病の現在の治療法に対する批判

『人類の進化が病を生んだ』(ジェレミー テイラー 著、小谷野昭子 翻訳、河出書房新社)

 著者のジェレミー・テイラーはサイエンス・ライター。訳者あとがきによると、イギリスBBCテレビでシニア・プロデューサーとディレクターを務め、科学番組のシリーズを担当した。リチャード・ドーキンスと共同で『盲目の時計職人』のドキュメンタリー作品も制作し、評価を得た。

 フリーランスになってからはディスカバリー・チャンネルなどの科学番組を制作。本書を含む2冊を書く一方、進化医学公衆衛生国際協会の出版局でアソシエイト・エディターを務めた。惜しいことに2017年7月、膵臓がんのため70歳で亡くなったという。

 さすがに気鋭、かつ経験豊かなサイエンス・ライターの仕事の総括ともいうべき重厚な内容で、頭が下がった。それぞれの病気の歴史的理解と、最近の進化医学から明らかになった研究内容が、著者の視点で抽出されている。

 私も恥ずかしながら把握していなかったいくつかの研究報告があり、目を見開かせられた。

 たとえば、「多種多様な分子と微生物が脳に侵入するのを阻止する血液脳関門もまた、腸内細菌によって管理されている」ことを見出したカロリンスカ研究所のぺターソンの研究。

 <無菌マウスから生まれた子マウスは死ぬまでずっと、血液脳関門が漏れやすかったというのだ。この研究結果はあくまでマウス実験で、ヒトでは検証されていないが、意味するところは憂慮に値する。母親の腸内マイクロバイオータが減衰していると、生まれた赤ん坊の血液脳関門が不完全となり、脳の正常な発達が阻害されるのはもちろん、その後の人生でも脳の防御がうまくいかなくなる可能性があるということだ。>

 癌やアルツハイマー病については、気骨のあるジャーナリストでなければここまで書けないと思われるほど、歯に衣着せぬ批判を現在の治療法にぶつけている。

 <現在の抗癌剤治療には重大な欠点がある。治療そのものが選択圧となって既存の遺伝子に変異を促し、抗癌剤への耐性をつけさせてしまうことだ。ところが、ほとんどの臨床医は抗癌剤の耐性のことに気づいていない。>

 <大部分の症例において抗癌剤治療がしているのは、癌を悪性化させないことではなく、むしろ癌が悪性化する方向に選択圧をかけることだ。>

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