中国メディアの裏側(全3回)

2011年2月27日

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福島香織 (ふくしま・かおり)

ジャーナリスト。
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、 2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)など。日経ビジネスオンラインで「中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス~」連載中。

 たとえば党中央機関紙の人民日報社もタブロイド版京華時報を北京地域で出し、そこに掲載されるのは庶民に身近な事件、小さな汚職や不動産や物価のような社会ニュースが中心だ。同じく人民日報社が出す国際時事紙・環球時報は、党の宣伝的内容に沿いながらも、庶民受けする反日的論調などで部数を稼ぐ人気紙となった。人民日報は公称250万部と中国では参考消息につぐ大量発行部数紙だが、この部数は党機関や学校、国有企業の半ば強制的な公費購読で支えられているので、人民日報社発行の本当の意味で読まれている新聞は環球時報や京華時報といえる。

 北京市の市場では、北京市党委機関紙の北京日報系の北京晨報や広東省党委機関紙の南方日報(南方報業メディアグループ)と光明日報社が出資した新京報などの50万部前後の新聞がしのぎを削っている。こういう競争は地域ごとにあるが、南方日報系の週刊紙・南方週末のように広東紙でありながら全国的に販売されている新聞もあり、インターネットの発達で地方紙ニュースが全国どこでも見られる今の時代は、中央紙より地方紙が全国的影響力を発揮することも多い。現にオバマ大統領が初訪中(2009年11月)したときに、単独インタビューを受けたいと指名したメディアは人民日報ではなく、広東紙の南方週末だった。党中央はこれが悔しくて、中央宣伝部を通じてオバマ大統領インタビュー記事に干渉し、それに反発した南方週末が意地になって記事を載せずに紙面に空白をあけたまま発行した事件は日本でも少し話題になった。

統制とジャーナリズムの
はざ間で生きる記者たち

 中国の新聞記者、とくに都市報の記者や編集者たちは、こういう市場競争と宣伝部から下りてくる報道統制通達のはざまで取材をしなければならない。

 強制的な党機関への割当購読で部数を維持している中央宣伝部直轄紙の記者や編集者の意識は、市場よりも宣伝部の方を向いており、政治的ミスを絶対してはならないとびくびくしている。普通のミスは一つにつき最高50元の罰金が課されるが、万が一それが政治的に大きな影響をもたらすものであったら、更迭や解雇もある。編集長クラスになれば部下の記者のミスによって出世の道を断たれることもある。中央宣伝部直轄紙の総編集長(社長)の権力は閣僚級であり、中央紙の出世コースに乗った記者ほど慎重になり書かなくなるし、部下の記者には「書いてくれるな」と懇願する。こうなると、彼らはもはや記者というより官僚なのだ。

 その一方で、売上至上主義の地方の都市報や週刊紙(誌)の記者たちは読者受けを狙うために、統制すれすれの現場突撃取材や調査取材を行い、多少挑発的なエッジの効いた原稿を書かねばならない。というのも、読者が望むのは社会の中にある不条理や不正を告発してくれる記事であり、そういう記事というのは突き詰めてゆくと権力側、体制側の批判に繋がってゆくからだ。

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