世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年4月12日

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 米・サウジ関係は、昨年5月のトランプ大統領のサウジ訪問で急速に改善されている。昨年5月の首脳会談では、米国からサウジに対し1100億ドル相当の武器を売却する契約が成立、全体では約4000億ドルの商談であったとされる。両国関係が急速に改善、緊密化した最大の理由の一つは、オバマ前政権がサウジの意向を無視する形でイラン核合意を成立させたのに対し、トランプはイラン核合意に強く反対し、イランに対する敵対心を共有しているためである。上記マティス長官の歓迎演説でも、マティスは核合意に反対ではないが、イランを名指しで「有害な行動を抑止する」と述べている。

 ムハンマド皇太子は、今回の訪米の直前、CBSとのインタビューで「サウジは原爆の保有を望まないが、イランがそれを開発する場合は我々は間違いなく可能な限り早期に開発する」と述べた。トランプ政権では、最近イラン核合意を支持する、ティラーソン国務長官、マクマスター安全保障担当補佐官が相次いで解任され、反対派のポンぺオCIA長官、ボルトン元国連大使が後任となる予定である。

 米国のイラン核合意からの離脱は現実味を帯びてきている。しかし、それは、イランに核開発再開の口実を与えることになる。そうなると、サウジは、ムハンマド皇太子のインタビューでの発言の通り、核開発を目指す可能性がある。サウジは原発計画を持っているが、これに関連して、原爆の原料である高濃縮ウランとプルトニウムを生産する技術である濃縮と再処理にも関心を持っている疑いがある。米国は、非軍事的核技術の受け入れに際し、濃縮と再処理をしないという約束(いわゆる「黄金の基準」)を求めているが、サウジは「黄金の基準」の受け入れに難色を示している。サウジを核開発に走らせないためには、イランに核合意を確実に遵守させるのが最も理にかなっているが、トランプ政権はそれとは正反対のことをしようとしているように見える。中東のような不安定でテロ組織の蔓延した地域で核開発競争が起これば、核拡散の危険が一気に高まる。

 上記演説でも最も多く触れられているように、2015年に始まったイエメンの内戦も重要な問題である。ムハンマド皇太子(当時は副皇太子)がアラブ首長国連邦などと共に軍事介入を始めたことで、反政府勢力のホーシー派を支援するイランとの間で代理戦争となっている。この介入は、サウジにとってはコストばかり嵩み成果を得ることができていない。そして、深刻な人道危機を招いており、米議会ではサウジへの軍事協力を止める決議案が提出された。ただ、ムハンマド皇太子の訪米に合わせて3月20日に行われた採決では、賛成55、反対44で見送りとなった。トランプ政権がサウジへの軍事協力を停止するとは思われないが、マティス長官も、国連のイエメン特別代表の任命に言及しつつ政治的解決を加速するよう述べている。サウジとしても、最終的には、人道危機を終わらせるという名目での政治的解決以外に選択肢はないであろう。その際、イランの影響力増大を最小限に抑えられるかどうか、今後の中東のパワーバランスにとり影響のある要素であり、注目される。

  
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