書籍詳細

免疫―その驚異のメカニズム
谷口克 著

目次


英国の医師エドワード・ジェンナーが近所の少年ジェームス・ヒップスに種痘の人体実験を行って天然痘の予防に成功し、人類に免疫力があることを初めて科学的に証明して以来二〇〇年が経過した。
これは現在でも使われているワクチンによる疾病予防法の発明でもあった。したがって、われわれに備わっている免疫力が、感染症から身を守るための防御システムであると考えられたのも無理からぬことである。

しかし、一九七〇年以降の免疫システムの研究の進展、特に細胞免疫学、分子生物学の著しい進歩により、その仕組みが明らかにされた結果、免疫システムの意義を根本から考え直さなければならなくなった。

免疫システムのもつ本来的な意義、それは自己・非自己を区別するシステムである。感染症からわれわれを守っていたのは、免疫システムが細菌やウイルスなどの非自己を排除した結果にすぎなかったのである。免疫システムが自己に反応せず、無限に存在する非自己だけを見分けて攻撃し排除することから、さまざまな疑問をわれわれに投げかけてくれた。

第一の疑問は、免疫システムは、どのようにして地球上に存在しない物質に対しても反応できる無限に近いほどの膨大なレパートリーを用意することができるのか。

第二の疑問は、免疫システムが無限に近い膨大なレパートリーをつくるシステムだとすれば、できあがったレパートリーの多くは自己と反応し、免疫システムが自分を攻撃する、いわゆる自己免疫病にかかるはずであるが、そのようなことはなく、常に非自己とだけ反応するトリックとは何か。

第三の疑問は、自己と非自己を区別するシステムとはどんなものか。われわれの知る通常の「自己と非自己の区別」とは「自己の確立」「自己認識」があってはじめて「他」あるいは「非自己」を区別できる。「自己」とは何かという哲学の命題は、免疫システムという生命現象からどのように学び取ることのできるのであろうか。

第四の疑問は、調和のとれた免疫システム・ネットワークの不思議だ。免疫システムは肝臓や心臓のようにひとつの臓器でひとつの機能を司るわけではなく、体中をリンパ球が浮遊しているにもかかわらず、極めて調和のとれた反応系を保っている。そのためには、反応を起こすとき、あるいは免疫系をつくるに際してもキー・ステーションとなる「場」の存在が重要である。そこでは、どのようなルールで制御されているのであろうか。

われわれの体には、人知を越えた仕組みがある。何億年も後に出現するであろう新しい細菌やウイルスに対しても対処できる仕組みをもつ免疫システムを、われわれ人間の営みに演繹して考えることはできないか。とくに地球、国家、都市をはじめとしてわれわれを取り巻く環境と人間との関わりあい方、あるいは人が生存するために考慮しなければならない問題とその解決方法に何か示唆があるか考えるための参考にしていただきたい。<本文より>

<書籍データ>
◇B6判並製、192頁
◇定価:本体1,200円+税
◇2000円6月26日発行

<著者プロフィール>
谷口克
(たにぐち・まさる)
千葉大学大学院医学研究科教授・学部長。1967年千葉大学医学部医学科卒業。千葉大学助手、オーストラリア・メルボルン・ウォルター・エライザー・ホール医学研究所留学を経て、1980年より現職。免疫学の最先端で数々の業績を修め、1977年エルウィン・フォン・ベルツ賞受賞、1993年野口英世記念医学賞受賞。主な著書に『免疫Q&A』(鍬谷書店)、『免疫の不思議』(岩波書店)など。1997~1998年、日本免疫学会会長。

免疫―その驚異のメカニズム

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