2024年4月20日(土)

ちょっと寄り道うまいもの

2011年3月11日

 もとより、この当時には、古代ローマの『アピキウスの料理書』、あるいは南北朝時代の中国の『斉民要術』のように、こと細かく調理法まで書かれた資料は存在しない。木簡に書かれた食材などから推理しつつ、再現するしかない。それを、出来る限り誠実にという印象。

 

 そして、美味しい。真っ当に美味しい。調味料も調理法も制限されているから、どうしてもシンプルな料理が多いのだけど、だからこそ、質の高い食材でなければもたない。それをちゃんとやってあるということだ。

 誠実に再現することと、食べて美味しいもののバランス。それが素晴らしい。感じ入って、話を聞くと、年季が入っていた。1300年とはいわぬまでも、数十年を経ての大プロジェクト。なるほど。奈良も一日ではならず。

 さて。運動をして、また、お腹を空かせねばならぬ。幸い、古都には歩き回るところはいくらでもある。鹿でも眺めながら、春日大社まで上るか。博物館、美術館も見応えのあるところがいくらもあることだし。

 目的地は「アコルドゥ」。現代スペイン料理のレストラン。最近の料理の世界では、スペインが最先端なのだ。新しい調理法で、世界中の美食家をあっといわせている。そんなところで修業して奈良に開いた、川島宙〔そら〕さんのお店である。

 生まれたてのミルク深紅のベールに包まれた39℃のボッコンチーニ トリュフの泡。オリーブの土にまみれた野菜『蕪〔かぶ〕・葛城のらっきょう』。軽く燻した五条の豚 エッセンスクロロフィリアとはしばみオイル。

 料理名だけでは想像もつかぬか。説明も難しいのだが、とにかく、新しい技法と土地の食材を使ったスペイン料理である。それが、楽しい。何がどうなっているのかという驚きがある。ソースが泡だったり、意外な温度や組み合わせだったり、不思議な食感だったり。料理に合わせたワインを飲みつつ食べていると、料理とは何か、人が食べるとはどういうことかと根源的なことに想いが及ぶ。知的好奇心をそそる味。


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