赤坂英一の野球丸

2018年4月11日

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 私はサラリーマン記者として18年、フリーライターとして12年、合わせて30年、スポーツの取材に従事している(今年6月でちょうど30年目)。そういう私が最近、スポーツ以外で最も興味を惹かれたニュースが、厚生労働省東京労働局の勝田智明局長によるマスコミへの〝恫喝発言〟だった。

(golubovy/iStock)

 これは勝田局長が3月30日、定例記者会見で報道陣の質問を受けて口走ったもの。裁量労働制を違法に適用したとして、東京労働局が野村不動産を特別指導した件について記者から聞かれた際、勝田局長が目の前の報道陣に対し、「何なら、みなさんの会社に行って是正勧告をしてもいい」と発言。これがマスコミへの脅しに当たると見なされ、その日のうちに上司の蒲原基道事務次官から厳重注意を受け、2日になって発言を撤回、メディア各社に謝罪する事態となった。

 なぜこの〝事件〟が気にかかったかというと、スポーツマスコミにおいても労働条件の悪さ、とりわけ休みの少なさが長年の普遍的問題となっているからだ。実際、いまも昔も、「思うように休みが取れない」「家族に文句を言われて困っている」という宮仕えの記者たちの不平不満をしょっちゅう耳にする。

 例えば、新聞のプロ野球担当記者の場合、2、3月はキャンプとオープン戦で一定期間、地方へ出張しなければならない。シーズンが開幕してからも遠征が多く、週末も必ず試合が行われる。その間、使用者(会社)は労働者(記者)に対し、最低週に1日、なるべく土日に休みを与えなければならない、と労働基準法第35条には定められている。だから、番記者が休みの日は代わりの記者を取材させればいいと思われるだろうが、現実にはなかなかそう簡単にはいかない。

 注目される投手の先発試合、大物ルーキーのデビュー戦、優勝のかかった天王山など、常にチームに密着している担当記者でなければ中身の濃い原稿が書けないというケースは結構ある。監督交代、FAやトレード等ストーブリーグの人事情報ならばなおさら、他紙を抜くほどの特ダネを取ってくることは代理の記者には不可能だ。逆に、その日だけ担当記者を休ませたため、他紙にはすべて載っているネタを自分の社だけ報道できなかった、という〝特落ち〟を招きかねない。新聞社にとってはとんだ赤っ恥だ。

 こうなると、会社としてはおいそれと担当記者を休ませられない。休ませたとしても、上司が電話やメールでその日のうちに必要な情報を要求したりする。一方、記者の中にも、上司にそう言われたら仕方がない、他社に抜かれるのも嫌だからと、休みを取らなければならないとわかっていながら取材に走る者がいる。従って、勤務表の上では休みになっているのに、延々と働き続ける記者が続出するのだ。そのため、夏期休暇を10月や11月に取っている者も珍しくない。

 プロ野球に限らない。大相撲担当では日馬富士の暴行事件が発覚した昨年11月以降、10連勤、15連勤、さらにそれ以上の長期勤務となった記者が少なくなかったとも聞く。相撲の取材は早ければ早朝5~6時の朝稽古から始まり、本場所の取組後に原稿を送ったあとも夜8時ごろまで拘束されるから、記者たちもかなりの体力を必要とする。

 私が駆け出しだった1980~90年代には、「休みなんかなくて当たり前だ」とはっきり言う先輩記者がどこの会社にもいた。「何もできない記者が人より面白い原稿を書こうと思ったら、まして他社を抜こうとするのなら、休んでいる暇なんかあるわけがない」というのだ。さすがに現代ではそういうことを大っぴらに口にする人物はあまりいない。いたら、たちまちパワハラで訴えられるだろう。厚生労働省東京労働局の勝田局長の〝恫喝〟も、そうしたマスコミの労働実態をある程度踏まえた上での発言だったのではないか。

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