2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年2月24日

 例えば、温家宝首相は春節を控えた1月25日、北京の国家信訪局で地方から来た陳情者8人と面会した。8人は土地の強制収用、立ち退き、社会保障問題などで不満を抱えており、温首相がこれを真剣に聞く様子を国営新華社通信などは伝えた。民衆の不満が集中する国家信訪局は「北京で最も敏感な政治地点の1つ」(中国紙『南方週末』)とされ、新華社通信は「共和国総理として初めて上京した陳情者と対面交流した」と紹介、温首相はこう語った。

 「われわれの政府は人民の政府だ。われわれの権力は、人民が与えた権力です。われわれは、手中の権力を人民の利益を図るために利用しなければならず、責任を持って人民群衆の困難や問題を解決する必要があります」

 実はこの日、温首相は自分の執務場所である中南海に民衆、労働者、農民工(出稼ぎ労働者)らを招待。この際、「われわれの政府は人民の政府だ…」と同じセリフを繰り返した上で、こう言い切った。

 「民衆が満足かどうか、嬉しいかどうかが政府の仕事の善し悪しを測る唯一の基準だ」

 胡指導部は「ムチ」だけでは安定を保てないと自覚し、「人民総理」が「民」に優しく語り掛ける「アメ」も駆使するが、現時点では政治改革として歩みだす動きはなかなか表面化しない。

社会のどこにも転がる危ない導火線

 中国の「民」たちは周りの動きに敏感だ。別に政権を倒すつもりはなくても、身近な場所で何か偶発的な事件が発生し、極めて少数の誰かが不満の火を灯すと、それに全く関係のない人までどんどん集まる。そしてみんなそれぞれが抱える個人的な小さな不満が連鎖的に一気に燃え上がり、次第に共産党一党独裁体制への打倒を目指す運動に発展する。今回の「ジャスミン革命」騒動で胡指導部が「民」を恐れるのは、中国社会のどこにでも導火線が転がっているという現実を熟知しているからだ。

 

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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