チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年4月12日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 北朝鮮は、平昌オリンピックへの参加を通じて、韓国との融和姿勢を強調してきたが、韓国と核兵器開発問題について協議するつもりはない。2018年4月27日実施予定の南北首脳会談における議題設定の協議で、南北首脳会談において非核化の問題を取り上げることに消極的な姿勢を示したことが、北朝鮮の意図を示唆している。

 そこで北朝鮮は、中国を巻き込んで米朝対話に関する構造を複雑化して、米韓と中朝というバランスを確保しようとし、韓国の主導的立場を弱めようとしているのである。さらに、ロシアを巻き込むと、バランスをとって日本を引き入れることになり、結果として六者協議と同様の枠組みになる可能性もある。そうなると、六者協議の議長である中国の存在感がさらに増すことになるだろう。

「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」は全く異なる

 こうした一連の北朝鮮の動きを見ると、北朝鮮が真剣に自らの非核化の問題を議論する用意があるとは考え難い。そもそも北朝鮮は、米朝首脳会談に関しても、「朝鮮半島の非核化」と言い、「北朝鮮の非核化」とは言っていないのである。この2つは全く異なる。「朝鮮半島の非核化」と言った際には、在韓米軍が含まれるからだ。北朝鮮は、これまでも「朝鮮半島の非核化」を主張している。米国は、これを受け入れることはできないだろう。

 しかも、北朝鮮が言う「非核化」には、北朝鮮の体制の保証という前提条件がある。訪中した金正恩委員長は習近平国家主席に対して、「核放棄に応じるには、米国による北朝鮮の確実な体制保証を先行させることが条件になる」と述べている。

 結局のところ、北朝鮮は何も新しいことを提案している訳ではない。朝鮮半島の非核化に向けた「積極的な」姿勢を見せたに過ぎない。それも、韓国に対する融和姿勢を示す中でのことであるから、あたかも融和的な手段によって北朝鮮の非核化が実現するかのような錯覚をするのだろう。

 北朝鮮の韓国に対する融和姿勢の目的は北朝鮮経済の回復及び発展にある。北朝鮮は、2017年夏以降、政策の重点を明らかに経済に移したと言われる。2018年1月1日の金正恩委員長が行った「新年の辞」は、経済に関する成果を強調する内容であった。「核ボタンが常に私の事務室の机の上に置かれている」という表現をもって、挑発だとする報道もあったが、核兵器開発についての言及は全体の1割にも満たなかった。

 さらに重要なのは、金正恩委員長が「国家核武力完成の歴史的大業を成就した」と宣言したことである。北朝鮮にとって、核兵器開発の問題は「終わった」のだ。2017年11月29日に新型の大陸間弾道ミサイル「火星15」の発射に成功したことをもって、北朝鮮は米国に対する核抑止を完成させたとしている。

 実際には、大気圏再突入技術などの問題を残したままであるが、北朝鮮は、核兵器保有国というステータスを得て、逃げ切りを図ろうというのだ。北朝鮮の関心はすでに核兵器にはなく、経済にあるということである。

 北朝鮮に対して融和的な姿勢を取ろうとする韓国の文在寅大統領は、北朝鮮にとっては好都合だ。韓国を利用して北朝鮮の融和的姿勢を示し、国際社会に対して、軍事的緊張を高めているのは米国の方であるという印象を与えようとしている。米国としても、自らが悪者にされる訳にはいかない。北朝鮮との対話を拒否すれば、「米国が平和的解決を拒否している」という誤った印象を与えかねない。

 米国は北朝鮮との首脳会談を拒否することはないだろう。しかし、だからといって、北朝鮮の要求を飲むとは限らない。トランプ大統領の発言や米国政府内の人事などを見る限り、米国が北朝鮮に核兵器を放棄させようとする意志に変わりはないように思われる。

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