2024年4月19日(金)

中国メディアの裏側(全3回)

2011年3月1日

 当局の反応も早く、国内の微博ではすぐ「茉莉花」(ジャスミン)も「革命」も検閲ワードとして検索ができなくなり、書き込みも削除された。だから、いったい国内にどれくらい、この呼びかけが広がったのかは定かではない。結果からいえば、この呼びかけは不発に終わった。しかし、中国当局側の凄まじいばかりの「ツイッター革命」への警戒感を垣間見ることもできた。現実は、北京でも上海でも呼びかけられた場所は大量の制服警官や私服警官が配備され、集会が起こる余地もなかった。だが、公安当局は反体制的書き込みをしたネットユーザーや主だった国内の人権活動家ら約1000人に禁足命令を出し、広州市では集会に出かけようとした人権派弁護士・劉士輝氏が、何者かに暴行を受けた。台湾中央通信社によれば、逮捕、拘束された市民は100人に上るとも。黒竜江省ハルビン市ではネットの呼びかけに応じて指定の広場に出かけ中国共産党の腐敗を訴えた35才の女性が「国家政権転覆罪」などの容疑で逮捕された。ツイッターで流れた、たった出所の分からない集会の呼びかけで、これだけの警察を動員し、逮捕者を出し、治安担当の周永康・政治局常務委員はあわててインターネット検閲強化の指示を行ったのだった。

まるで文革再来 
サイバー空間にも当局の目

 これほど、ツイッターの影響力を警戒している中国当局がなぜ2009年8月、国内で微博というソーシャルネットワークを許可したのかは不思議でならない。そのような質問を複数のIT業界関係者に投げかけたところ、こういうような答えが返ってきた。ひとつは「微博のユーザーのほとんどは、他愛ないおしゃべりや好きな歌手やアイドルをフォローするのが目的で革命やデモの呼びかけを拡散するツールとしてはあまり関心をもっていない」。または「多少、社会の不条理や不満を訴えるツールを与えた方が、当局としては社会管理しやすい」。さらには「当局としては微博を含むインターネット上の世論誘導に十分な自信を持っている。ネットは当局にとっても情報発信の重要なツールである」。

 もちろん、これは業界関係者らの見方にすぎないが、中国当局の世論誘導の手腕は2008年3月のチベット騒乱事件のときに目の当たりにした。胡錦濤政権の危機とまでささやかれた事件だったが、人々の怒りをうまく欧米メディアの偏向報道批判にすりかえ、愛国心の掲揚につなげた。その後に発生した四川地震のときも、ネット世論を国内団結の方向にまとめることができた。いくつかの大事件の経験をふまえてネット世論の対応に当局が自信を持ってきたのは間違いないだろう。加えて中国には世界で一番洗練されているといわれるネット統制システム「金盾工程」がある。中国はこの技術を中東の専制国家に輸出する準備をしていたところだったが、その前に“ツイッター革命”が中東で始まってしまった。

 こういった意見を聞いて想像するに、厳しい報道統制通達や洗練されたネット統制で記者や編集者には“文革時代並”の圧力をかけつつ、市民には多少の不満を吐露する自由空間を与えつつ、うまく世論誘導していく、というのが目下の宣伝当局の方針ではないだろうか。

ネットメディアに微かな光
内側から殻を破れるか

 宜黄の焼身自殺事件を微博で報じた鳳凰週刊誌記者は私にこう言ったことがある。「微博には官僚も警官も記者も普通の会社員や商売人や出稼ぎ者もいる。皆が平等に140字で情報発信をする。僕らも監督されるかもしれないけれど、僕らも官僚や警官を監督できる。相手の意見に自分のコメントをつけて拡散できるのだから、同等の立場で世論に影響をあたえることができる」

 「確かに、今の状況では体制批判や民主化や言論・報道の自由を求める発言・報道はできない。でも、微博のようなツールがあれば、いつか欧米の国のように自分の国の政治の悪い部分を正面から批判できる時代がくると信じているよ」


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