イノベーションの風を読む

2018年4月16日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 Netscape Navigatorという最初の商用ウェブ・ブラウザを開発したことなどで知られるマーク・アンドリーセンは、2011年にウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿したコラム『なぜソフトウェアが世界を呑み込んでいるのか』で、ソフトウェア企業が経済の大部分を占有しようとしていると主張した。

 「私は、この先の10年で、より多くの産業がソフトウェアによって破壊されると予想している。多くの場合、その破壊は、最先端の新しいシリコンバレーの企業によるものだろう」

 アンドリーセンの予想どおり、ソフトウェアは、それまで無関係だと思われていた産業や、古いビジネスモデルに基づいた産業を次々と呑み込み、ソフトウェア化の波に乗れない企業を窮地に陥れている。

 フェイスブックもアマゾンもネットフリックスもグーグルも、ソフトウェアのテクノロジー企業であり、それらの頭文字をとったFANG(牙)は、株式を牽引するという意味の証券用語で、現在ではアップルを加えたFAANGが使われている。アップルもiPhoneやMacなどのハードウェアの売り上げで収益をあげてはいるが、iOSやmacOSというソフトウェアがアップルのテクノロジーの中心になっている。

 FAANGに代表されるソフトウェアのテクノロジー企業が世界を呑み込んでいる。2001年の時価総額ランキングは、GE、マイクロソフト、エクソン、シティバンク、ウォルマートの順だったが、2017年には、アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾンと大きく様変わりした。

(Wavebreakmedia Ltd/iStock)

イノベーションのための買収 

 しかし、ソフトウェアによる破壊(ディスラプション)が続く世界での、市場優位性をめぐる戦いに終わりはない。テクノロジー企業は、イノベーションへの貪欲さと恐怖に突き動かされているかのように、次のイノベーションのためにスタートアップを買い漁っている。

 スタートアップとは、創業後の短い期間で急成長し、エグジット(出口)と呼ばれる、株式公開あるいは他社に高額で買収されるという目標の達成を目指す、革新的なビジネスモデルを持ったベンチャー企業を意味する。アンドリーセンの言う「産業を破壊するソフトウェア」の多くは、スタートアップによって生み出されている。

 近年は、特にAIのスタートアップの奪い合いが激化している。CBインサイト*によれば、過去5年間に、シリコンバレーのAIスタートアップのほとんどは、トップのテクノロジー企業たちに買収されてきたという。昨年、120社ほどのAIスタートアップがエグジットに成功したが、そのうちの115社は(株式公開ではなく)買収されたものだった。

 なかでもグーグルは、2012年から14社のAIスタートアップを買収している。2013年にはトロント大学のコンピュータサイエンス部門出身の、ディープラーニングとニューラルネットワークのDNNリサーチを買収して画像検索を強化し、2014年には英国のディープマインド・テクノロジーを買収、さらに2016年には、Google Assistantの音声認識を改善するために自然言語処理のスタートアップのAPT.aiを、最近では会話型コマースのプラットホームのバンターを買収している。

 アップルがシリを買収したのは2010年と早く、これまでに13社のAIスタートアップを買収した。アマゾンがAlexaの開発のためにエビ・テクノロジーズを買収したのは2013年のことだ。今年に入ってから買収したサイバーセキュリティのスクオロルで、アマゾンのAIスタートアップの買収は5社となった。フェイスブックは、顔認識のフェイスドットコム(2012年)を皮切りに、6社のAIスタートアップを買収している。

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