2024年4月18日(木)

古希バックパッカー海外放浪記

2018年4月29日

家督を譲ってから出家するという生き方

 東京近郊から来たOさんは熱心な仏教徒である。長男に老舗の家業の経営を譲って隠居。それから70歳の時に念願の出家をしたとのこと。出家と言っても数カ月間お寺で修行して得度したという比較的簡易な方法らしい。現在も家族と一緒に住み慣れた家に住んでいるので、厳密な定義では“出家”ではないのだろう。

 いずれにせよ、Oさんは引退したら出家して仏の道を深めたいと50代の頃から考えていたという。今回は3カ月の予定でお釈迦様の足跡を辿って北東インドの縁の地を巡礼するという計画。

日本に伝わった様式を備えている初期の仏像@ブッダガヤ考古博物館

 Oさんは朴訥とした素朴なお人柄で座禅や瞑想を心から楽しんでいる様子。仏教関係の書物もかなり読み込んでいる様子で分かりやすく解説してくれる。

 Oさんは73歳というお年にしては血色が良く見るからに健康そうである。信仰を深めて少しでも仏に近づきたいという真摯な思いと毎日の心身の鍛錬の賜物と拝察した。私よりちょうど10年年長のOさんに接して、10年後の自分のあるべき姿が見えて来たようだ。

仏心寺宿坊に現れた第3の男

 3月16日。宿坊のドミトリーに誰かチェックインしたようでベッドの上に使い古したバッグパックが置いてあった。夕刻市内見物から戻ってきたのは49歳の邦人Nさん。Nさんは年季の入ったバックパッカーである。

チベット仏教系寺院の仏塔(スツーパ)。ブッダガヤでは仏教が伝わった様々な国の異なる仏教文化を見比べることができる

 Nさんは若いころから世界中を旅して、趣味の絵を描いたりサーフィンをしたりして自由人的人生をエンジョイしてきた。

 資金が足りなくなると一時帰国して“割のいいバイト”でお金を貯めては日本を飛び出すという繰り返し。20台の後半で一度結婚したが、Nさんの海外放浪癖が原因で離婚。それ以来会っていない息子さんは現在20歳になっているはずという。

 Nさんが若い頃は日本国内の農業・漁業関係の季節労働需要がかなりあって果物・野菜の収穫や魚介類の加工などの仕事を求めて沖縄から北海道まで渡り歩いたという。最近では外国人実習生や不法滞在者が増えたので賃金が頭打ちとなり余り稼げなくなったとのこと。

 現在は沖縄の農場をベースにしている。パイナップルやニンニクなどの作物の栽培・収穫などの作業をしているが、寮費・食費を差し引くと手取り月額10万円前後という厳しい状況。

 Nさんはそろそろ沖縄で落ち着きたいと考え始めていた。頑張って貯金をして小さな家を建てる。「そして、できれば嫁さんも欲しいですよ」と述懐。いつか別れた息子に会うためにも、父親として恥ずかしくないように足元を固めたいと語った。

 Nさんは翌朝夜明け前にネパールに向かって出発した。

⇒第6回に続く

  
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