この熱き人々

2018年5月22日

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30代で開店したレストランが1年5カ月でミシュラン三ツ星を獲得。世界のレストラン・ランキングでも常に高い評価を得てきた。フレンチという分野、料理という枠を超え、五感を揺り動かす創造に挑み続ける。
 

 大阪のミナミとキタを結ぶ四ツ橋筋。繁華街の外側に続くオフィス街から住宅街に入る辺りに、開店から1年5カ月という速さで2009年にミシュラン三ツ星を獲得した米田肇のレストラン「HAJIME」はある。磨き上げられたガラスの扉に小さく「HAJ
IME」の文字。二つ折りの上質な紙のメニューの表紙には、コンサートのパンフレットのように「地球との対話 2018」とのみ記され、開くと今日演奏される曲名のように、森、生命、川、海、破壊と同化、希望といった料理名が並んでいる。え? と舌より先に頭が動き始める。多くの場合、料理は「○○産の何とかのフリット」というような食材と料理法とで表されるので、ある程度は想像できる。が、このメニューからはどんな料理なのか見えない。とりあえず「地球」や「海」という言葉を頭で転がしながら、未知との遭遇の瞬間を待つことになる。

 「文学も音楽も料理も、相手に何を伝えられるか、どんな感動を生み出せるかということでは同じだと思います。たとえば音楽なら、楽器がポーンと音を奏でて、いい音だなと思う。これは、料理ではおいしいと感じること。おいしさを追求することはいい音だけを追求することになる。そこにメロディーをつけて音楽になる。それがコース料理。演奏家や歌手がメッセージ性を込めて表現すれば、さらに心に残る感動が生まれる。料理は目も匂いも音も味も触覚も、すべてに訴えかけるエンターテインメントだと思っています」

 おいしさの先の感動を求めていると米田は言う。心が跳ね上がるのは、コース前半の「地球」という一皿。直径60センチの大皿には、姿も温度もさまざまな生野菜、温野菜、ピュレなど60種類もの野菜が細やかに息づき、アサリエキスの白いエスプーマ(泡)が雲のように浮かぶ。緑が雲を呼び、雲が雨を呼んで生命を育むという地球の循環を表現した一品は、しばし眺めていたい絵画のようだ。が、温度差にも込められたメッセージを感じるために、すみやかに舌で味わう。主旋律で動き出した感情が、時に軽快に、時にゆったりと、時に激しく一皿ごとにからまりながらメインに向かって高まっていく……というのは、これまでにない経験である。

「地球」はHAJIMEを代表する一皿。60種類以上の野菜が皿上で奇跡のように美しいハーモニーを奏でる ©Masashi Kuma

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