2024年4月19日(金)

解体 ロシア外交

2011年2月28日

 このように、北方領土問題は、これまでは比較的同問題に無関心だったロシア人の心に火をつけてしまい、万一、返還ともなれば、激しい反発を生む状態になってしまっている。

国際的な既成事実の積み上げ

 さらに悪いことに、ここにきて第三国が北方領土に進出してきている。ロシア漁業庁のサベリエフ広報官によれば、中国と韓国の複数の企業が北方領土での水産物加工や養殖、工場への水産加工機器納入、船舶修理工場設立などを計画しているという。

 2月1日、ロシアのバサルギン地域発展相は、北方領土を含む千島列島の開発プロジェクトのリストを韓国企業に提示し、事業参画を求めた。また、3月には北京で北方領土を含むサハリン州への投資を呼び掛ける説明会が予定されている。

 韓国企業は千島列島での建設や石炭、水産加工などの事業参画に大きな関心を寄せているという。2月15日には中国・大連の水産会社と国後島の地元企業とのナマコ養殖の合弁事業開始の合意が、翌16日には色丹島で中国の水産会社が地元企業とホタテ養殖の合弁会社設立を計画していることが明らかになった。

 ロシア政府は外国企業の北方領土への進出を歓迎しているが、日本政府は第三国による北方領土への投資はロシアの管轄権を認めることになるとして、ロシア、中国、韓国に抗議をしているが、日本への配慮は見られない。中国のマスコミでは、北方領土への進出を鼓舞する見解も見られる。

 メドヴェージェフ大統領は、常々、北方領土で日本と経済協力を進めたいと述べてきたが、日本が回避してきた経緯がある。日本政府は2月8日の閣議でも、メドヴェージェフ大統領がテレビで言及した北方領土での「自由貿易圏」創設について「ロシアの管轄権を前提とするものであれば、わが国の立場とは相いれない」とする政府答弁書の作成を決定している。

 そのため、このようなロシアの動きは、日本が経済協力に応じない場合には第三国との協力を模索するという強迫とも考えられる。実際、ロシア極東連邦管区のイシャエフ大統領全権代表は2月21日に日本政府の反発を尻目に、「日本企業も日本の投資も北方領土に進出しないのであれば、恐らく米国や中国、ブルネイ、シンガポール、マレーシアから来る」と述べている。とはいえ、すでに第三国との協力は現実的になってきている。

 日本としては、自国領で勝手に他国がビジネスを展開していくことを違法だとして主張したいところだが、そもそもある土地にはその「所有権」を持つ者の法律が適用されるものであり、領土問題がある地は無法地帯とも言えるが、実際は「実効支配」している者の法律が否応なしに力を持つ傾向がある。そして、他国が参入してくれば、その実効支配はより強化されることになるのだ。

軍事的進出

 軍事的な「実効支配」も強化されつつある。

 既述のように、1月20日から21日にはブルガコフ国防次官が、2月2日のセルジュコフ国防相が北方領土を訪問し、前者は駐留兵士の生活改善や燃料補給の増強を約束し、後者は部隊の視察という名目での訪問だったが、滞在時間が極めて短かった。いずれにせよ、政治的意味合いが強いと見られている。前原外相の11日からの訪露の直前のそのような出来事に、日本は多いに反発した。


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