2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年4月26日

 ボアオ・アジア・フォーラムは、ダボス会議のアジア版を目指したもので、中国政府の全面的支援を受けて設立されたものである。

 上記習近平の発言は、米中貿易摩擦をめぐり米側が問題視している、(1)外国企業への参入規制、(2)投資環境、(3)知的財産権の侵害、(4)対米貿易黒字、への回答という形をとっている。特に、自動車分野では、大きな譲歩を見せている。現在は、外資企業が中国で自動車メーカーを設立する場合に50%を超える出資が認められず、現地企業との合弁が義務付けられているが、これを緩和するとしている。また、自動車への関税を低減するとのことである。

 習近平が米中間の貿易摩擦の緩和を意図していることは間違いない。しかし、習近平が言っているのは中国の異常な慣行の是正といういわば当たり前のことで、米側の出方もあるため、これで米中貿易摩擦が緩和される見通しは立たないと言わざるを得ない。

 知的財産権については、上記発言では「国内の外国企業が所有する合法的な知的財産を保護する」と言っているが、何が「合法的」であるのか、中国における法執行の恣意性を考えれば、実効性は疑わしい。さらに、「中国製造2025計画」が、知的財産権を侵害することが懸念されている。同計画は、2025年までに中国は、世界の製造強国に追いつき、2049年にはトップに立つというものである。中国当局主導の振興策は公正な競争を損ねるし、外国企業に対して技術移転を強いる可能性が高いと思われる。これを国策として掲げている以上、中国による知的財産権の侵害がなくなるとは考え難い。

 対米貿易黒字については、2017年には、米側発表では3750億ドル、中国側発表では2758億ドルで、トランプ政権は1000億ドルの削減を求めている。これは、容易な話ではない。

 なお、習近平の対応には、余裕があるようにも感じられる。それは、根拠のないことではない。トランプは、貿易戦争になれば米国は勝てる、と豪語しているが、それは必ずしも自明なことではない。モノに関しては、中国の対米輸出は5060億ドル、米国の対中輸出は1310億ドルである。しかし、米国の対中輸出が農産品や米国製部品を中心に組み立てられた最終産品であるのに対し、中国の対米輸出は多くの国で作られた部品を中国で組み立てたものが中心である。その部品には米国の企業が製造したものも含まれる。トランプ政権は、現在の世界のサプライチェーンのあり方を正確に理解していないように思われる。

 いずれにせよ、日本としては、知的財産権の保護が特に重要である。米中間のやり取りの中でどのようになっていくか注視し、また、米国は中国による知的財産権侵害問題のWTOへの提訴も選択肢に入れているので、日米欧で共同行動をとる可能性を探る必要がある。

  
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