2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2018年4月27日

目をつける
ベンチャーファンド

 ゲノム編集技術は、いま実用化に向けて世界の研究者がしのぎを削っている。米国では一昨年あたりから多くのベンチャーファンドがこの技術の実用化でひとヤマ当てようと、技術の開発に巨額の資金をつぎ込んでいる。ゲノム編集が実用化されると、難病やがんの治療だけでなく、美容やアンチエイジングへの応用も期待されている。

 また動植物の遺伝子編集により、人間にとって効率的な食料生産ができるようになるなど、将来的にはマーケットが大きく広がる可能性がある。このため、バイオベンチャーの多いボストンやサンフランシスコでは、先物買いによる遺伝子治療への投資がブームになり、新規上場により資金調達する企業も多い。

 濡木教授はこの開発を加速するために、16年1月に産学連携のベンチャーEDIGENE(エディジーン、東京都中央区、森田晴彦社長)を設立。ボストンにもオフィスを構え、米国の研究者をスカウトして遺伝子治療技術の実用化を急ごうとしている。そのためには開発資金が必要で、製薬、化学会社などから16億円の資金を集めることに成功した。日本の製薬会社やベンチャーキャピタルはこれまで、こうしたベンチャーに対して資金を提供することに消極的だった。

 しかし、ゲノム編集技術の進化から遺伝子治療実現の期待が高まってきているため、積極的に資金を提供しようとする動きも出始めている。昨年12月、先端医療分野を将来の事業の柱と位置付ける富士フイルムがエディジーンに対して4億7000万円の出資を決定、思い切った先行投資に踏み切った。

 同社はこれまで培ってきた高度なナノ技術を活用し、有効成分を効率的に患部に届けて薬効を高めるリポソーム製剤の技術を、遺伝子治療の開発に役立てたいとしている。

タブーも関係なし?
先を行く中国

 中国では15年の時点で医療関係者の間でタブー視されてきた人間の生殖細胞の遺伝子編集を行い、世界の医療関係者のひんしゅくを買った。この分野は米国と中国で先陣争いをしており、科学雑誌「Nature」(16年11月24日付)はその模様を1950年代の旧ソ連の人工衛星開発競争に例えて、「スプートニクVer2」と揶揄している。米国では既にエイズ治療にゲノム編集技術を使っているが、中国はさらに先に進んで、肺がんの治療にこの技術を使っているという。

 一方、日本はこの分野の論文数や特許件数では大きく出遅れている。日本の製薬会社は、リスクを恐れずに果敢に挑戦してもらいたい。また厚労省もこうした新薬を開発するチャレンジに対しては、15年から新薬の審査期間を通常の半分の6カ月に短縮する「先駆け審査指定制度」を導入、世界レベルの開発競争に負けないように対応しようとしている。

 こうした官民の努力が成果を挙げることができれば、日本も遺伝子治療の最先端分野の競争の仲間に入ることができ、将来、大きな果実を得ることができるかもしれない。

  
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◆Wedge2018年5月号より

 

 


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