西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年4月20日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 ドナルド・トランプ政権は2020年に行われる人口統計調査から、回答者の国籍の有無を問うことに決定したと、ウィルバー・ロス商務長官が発表した。人口統計調査とは日本の国勢調査に当たるものであり、10年に一度実施されている。この決定に対して様々な批判が上がっており、カリフォルニア州はこの決定を覆すべく直ちに連邦裁判所に提訴した。また、ワシントンDCとヴァージニア州、メリーランド州も他の15州、6の都市、そして、超党派で構成される合衆国市長会などと共同で、方針を撤回するよう提訴した。

(iStock/doomko)

 このように書くと、読者の多くは、「何故、人口統計調査で国籍の有無を問うことが問題になるのだろうか?」との疑問を持つのではないだろうか。この論争の背景には、アメリカの政治、社会に特有の様々な問題が存在しており、今後のアメリカ政治の行方にも影響を及ぼす可能性があるため、本稿ではいくつかの点について検討することにしたい。

議席数や予算配分に影響

 人口統計調査は、どの地域にどれだけの人が住んでいるかという居住実態を調べるためのものである。この調査を商務庁が行っているのは、どの地域に、どのような経済状態の人がどれだけ居住しているかなどを調べることによって、企業が出店や投資などの経済活動を効果的に行うことを可能にするためである。この観点からすると、居住実態を正確に把握することの妨げになることは行われるべきでないということになるだろう。

 一般的に、人口統計調査に当たるもので当該国家の国籍の有無を問うのは珍しい事ではない。例えば、アメリカと同じく多くの移民を受け入れているカナダやオーストラリアでも国籍の有無は問われている。歴史を遡ると、アメリカでも、1950年の調査では、回答者に出生地を問うとともに、帰化の有無を問うていた。だが、60年の調査では出生地は問われたが帰化の有無は問われなくなった。そして、1996年には、人口統計局は本調査とは別にアメリカコミュニティ調査(ACS)を開始すると決定し、2005年以降、国籍の有無などを問う調査を、毎年350万世帯を対象として行っている。これは全世帯のおよそ2.6%に当たるが、果たしてACSが調査として十分なのかについては議論がある。そして、ACSで国籍の有無を問うているのなら、本調査でも同じように問うてもよいのではないかという問題が出てくるだろう。

 人口統計調査で国籍の有無を問うことが政治争点化する原因は、連邦議会での議席配分や選挙区割り、大統領選挙の際の大統領選挙人の数、そして、各種予算の割り当てに、この数字が用いられるためである。アメリカでは日本の住民票に当たるものが存在しない事が、この問題の大きな背景にある。

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