西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年4月20日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

誰の利益を代表すべきなのか

 合衆国憲法は人口統計調査を政治権力の配置を定めるために用いるよう定め、アメリカ国内に居住する全ての人の数を数えることを求めている。この数字を基に議会の議席や予算を配分する現在の方式では、非合衆国市民や子どもなど、投票権を持たない人の数も含めて考えられることになる。そうすれば、留学生の多い大学街や、合法不法を問わず移民人口の多い都市には、より多くの議席と予算が配分されることになる。このことをどう評価すべきかは、難しい問題だといえるだろう。

 議会の議席配分に関していえば、そもそも連邦議会議員は誰を代表し、誰の利益を追求するべきなのかという問題が存在する。政治家は「選挙区の有権者」の利益を代表すべきなのか、「選挙区の居住者」の利益を代表すべきなのか。あるいは、選挙区とは関係なく、「アメリカの全国民」の利益を代表すべきなのか、「アメリカの全居住者」の利益を代表すべきなのか。この問いに答えるのは容易ではない。

 予算の割り当てに関していえば、その割り当てを決める要素の一つとして人口を用いることについては認識が共有されている。だが、誰のために税金を用いるのが妥当かについては議論が分かれている。税金はアメリカ国民のためにのみ使われるべきだと考える人は、国籍を持つ人の数を基準として予算を割り当てるよう主張するだろう。他方、国籍を持たない人も様々な税金を支払っていること、また、警察や消防、水道などの行政サービスは国籍を持たない人でも利用していること、さらに、アメリカでは国籍を持たない子どもも初等・中等教育を受ける権利を持つと判例で示されていることを考えれば、国籍保有者数ではなく居住者数を根拠に予算を算出するという考え方にも合理性がある。

 このような論争的な問いが背後にあるが故に、問題が複雑化しているのである。

都市部の人と民主党支持者からの批判が多い

 どの州や都市もより多くの議席や予算を獲得しようとしていることを考えれば、留学生や移民が多く居住している地域は現在の方式を継続させようとする。そのような人々が居住していない地域は、有国籍者の人数に基づく予算配分を求めるようになる。問題を複雑にしているのは、大学街や移民が多く居住している地域は民主党支持の傾向が強く、共和党が地盤としている農村地帯には留学生も移民もあまり多く居住していないことである。州と地方政府による予算取り合戦に加えて、政党政治の要素が加わっていることが、この問題を複雑にしている。

 このような事情があるため、人口統計調査で国籍を問うことを批判する人々には、都市部の人と民主党支持者が多い。超党派で組織された合衆国市長会と、民主党が優勢な諸州が提訴に踏み切ったことの背景には、このような要因がある。

 そして、彼らは、国籍を問うことによって、合法移民も含めて移民の人々の人口統計調査への回答率が下がることを心配している。今日のように反移民、反不法移民感情が強くなっている時代にあっては、自らが移民、不法移民であると回答することにリスクが伴うと考える人がいても不思議ではない。

 これは、単にアメリカ国籍を持たない人の居住実態がわからなくなることを意味するだけではない。調査は世帯単位で行われるため、家族の大半がアメリカ国籍を持っていたとしても、一人でも移民がいたりすれば回答したくないと思う人がいるかもしれない。例えば、アメリカは国籍について血縁主義ではなく出生地原則を採用しているため、不法移民や旅行中の外国人がアメリカ国内で子どもを産んだ場合でも、その子どもはアメリカ国籍を持つ。そのような家庭で、アメリカ国籍を持たない親が回答しない状態になると、アメリカ国籍を持つ子どもたちの人数も把握されなくなってしまうのである。

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