2024年4月25日(木)

坂本幸雄の漂流ものづくり大国の治し方

2018年5月15日

 昨今、企業の情報流出に関する報道が多く見られる。半導体業界でも、米マイクロンの元従業員が台湾や中国の競合企業に不正に機密情報を持ち出す事件が発生し、訴訟が起きている。盗まれたデータは設計、プロダクト、ファイナンスなどの重要情報であり、数百億円規模の価値があると思われる。

 マイクロンは、幸いデータベースから情報が持ち出されたことを検知できたが、こうしたことに気づかず機密情報が流出し続けていたとすれば、その損害は計り知れない。

(iStock.com/Natali_Mis)

 海外の大手企業では、機密情報や社内システムを守ることに対して非常に注力しており、優秀な技術者を配置するとともに、法務部門との連携態勢も強くしている。最近では、プロセスや設計の技術者以上に、数学やコンピュータサイエンスに精通したデータ解析が得意な技術者を優先的に採用している。

 それと比較して、多くの日本企業では、情報システム部門といえば、社内システムに不具合が出たときのサポート部門というようなイメージが強いのではないだろうか。

 優秀な社員は設計部門等へ配属される一方で、情報システム部門に配属された社員がなかなか評価されないとしたら、それは改めるべきだろう。技術情報は企業の競争力の根幹だ。処遇を上げるなどして情報システム部門に優秀なエンジニアを配置し、情報流出防止に全力を注ぐべきだ。

 また、当たり前の話であるが、情報管理は情報システム部門だけでなく、会社全体として注力する必要がある。

 私がかつて在籍したテキサスインスツルメンツ(TI)では、他社との重要な打ち合わせはホテルの会議室など、極力どちらの企業にも属さない中立的な場所で行っていた。米国企業では、need to know(情報は知る必要のある人だけに伝える)の意識が強く、選定された出席者以外に情報が渡らぬよう徹底している。

 他社で重要な打ち合わせを行うときは、出席者が事前に机の下や壁など周囲に不審なものがないかを確認していたが、こうしたことは海外の大手企業ではよくある話だ。

 ちなみに私がエルピーダメモリのCEOを務めていたとき、社内と私の自宅を総点検してもらったが、その際に自宅の電話機から盗聴器が見つかったこともある。

 日本企業において、これほどまで情報管理に対して注力している企業がどれくらいあるだろうか。

 情報流出に対する具体的で厳格な罰則ルールを社内規定に定めることはもちろんだが、基本的なこととして、最低でも誰がどの情報にアクセスできるのかを明確にし、制限を何層にも分けておく必要がある。そして社員が異動する度にパスコードを変えることを徹底すべきだ。こうした仕組みが曖昧な状態では、情報の流出源を見つけるのが困難になり、情報が持ち出される可能性も高くなる。

 技術情報は企業の競争力の根幹であるという認識を今一度持つべきだ。

  
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◆Wedge2018年5月号より


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