2024年4月25日(木)

サイバー空間の権力論

2018年4月25日

個人の心理に介入するデータ分析

 一連の問題の発端は、CAの元従業員クリストファー・ワイリーによる内部告発であったが、数年前からCAの問題はいくつかの報道機関が調査していた。CAによるデータ分析とは実際どのようなものか。コーガンが利用したのは人間の性格特性を「Big Five」と呼ばれる5つに分類し、個人の心理状態を分析する方法である。性格特性はそれぞれ

(1)Open(開放性)
(2)Conscientious(誠実性)
(3)Extraversion(外向性)
(4)Agreeableness(同調性)
(5)Neuroticism(情緒安定性)

 となっており、これらの頭文字を取って「OCEAN」とも呼ばれる。

 コーガンは性格診断アプリを用いてユーザーの性格特性を分析するが、それ以外にもFacebookから得られるユーザーの年齢や住所、性別、「いいね」といった情報を分析することで、ユーザーの肌の色や性的指向、支持政党などの予測が可能となる。重要なのは、公開情報だけでなく、それら公開情報を分析することで、個人のことを公開情報以上に深く知ることが可能となる点だ。つまり、30万人のアプリデータだけでなく、その友達たちのデータ(8700万)からも、こうした性格などの予測が可能となるということだ(ちなみにOCEANの方法はコーガンより前に、同じくケンブリッジ大学の心理学教授であるミハエル・コジンスキー発表しており、コーガンが彼の発表を参考にしたと言われている)。

 では分析されたデータはどのように利用されるのだろうか。例えば熱心ではなくともある程度共和党に支持が傾いているユーザーが予測できれば、選挙戦の終盤に広告を打つことができる。またそのユーザーが情緒不安定性を持つのであれば、民主党の問題点を攻撃する広告をみせることで、トランプの方が安心できると思わせることが可能だ(不安を克服させるために、敵方への不安を煽るという手法)。

 現代の広告は各ユーザーの好みに適したものを表示する「ターゲット広告」と呼ばれる技術が普及しており、選挙においては各個人に最適な広告をみせることがとりわけ激戦区の有権者の心を掴むのに最適な手法とされている。

 CAの行ったことは概ね上記のようなものだが、実際はそれ以上に複雑な手段を用いていることが想像できる。個人情報からユーザーの好みを分析し、広告や情報を与えることで人々の意識に影響を与えるこの手法は、強い表現を用いるのであれば、ユーザーの心に「介入」しているとも言えるだろう。さらにその情報は、Facebook上で我々が何気なく公開したり「いいね」を押している情報から分析されているのだ。こうして、従来の広告効果を格段に高めるために、データから個人を分析する技術が開発されているのだ。


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