2024年4月19日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2011年3月11日

 ここで、世界経済の不均衡が是正されて安定成長の基盤ができれば、米国の経常赤字は改善してドルの垂れ流しは減少するし、米国の景気は堅調な外需で支えられることになる。当然、グローバルマネーの過度の膨張は抑制されるし、大規模な金融緩和策の必要性も薄れる。もちろん、食料価格高は投機的資金が減少する分抑制されることになる。

ドル体制の弱体化

 しかし、経済指標ガイドラインの設定は米国にとって好都合なことばかりではない。それは、ドル基軸通貨体制の一層の弱体化にもつながりかねないからだ。

 今回の経済指標のガイドライン化は、客観的な経済指標に内外不均衡是正の手段を委ねることが眼目となっている。それは、同時に、変動相場制の限界が認識されたことであり、ドルが国際通貨体制の基軸通貨役を十分に果たしていないことを米国自身が認めることに他ならない。

 金と交換可能なドルを国際通貨と位置づけて固定相場制を採用してきたブレトン・ウッズ体制が崩壊した後は、主要国通貨の価値が需給で決まる変動相場制が採用されてきた。そして、この変動相場制の中心にあって、各国通貨や国際商品の価値基準となってきたのがドルだ。これは、ブレトン・ウッズ体制崩壊後もドルが基軸通貨といわれてきたひとつの所以だ。

 ところが、経常収支幅の制限を通じて経済不均衡の是正を図ることは変動相場制を変質させかねない。ドルが単体では価値基準の中心を占めることが難しく、ガイドラインによって補強されることが明確になるからだ。

 そうなれば、国際通貨体制は次のように変質していくことが考えられる。それは、現在の変動相場制がガイドラインによって管理相場的な色彩を強めるなかで、ドルの基軸通貨性が薄れ、ユーロ、円、人民元や主要新興国通貨の存在感が増す姿だ。

不健全財政で存在感失う円

 米国は決してドルが単一基軸通貨の地位から転落するのを容認しないだろうから、G20ソウルサミットと今回の米国提案は、ドルと米国経済にとって経済指標ガイドライン化がプラスと踏んだ結果であることは間違いない。

 しかし、健全な経済・通貨運営ができない米国と弱体化するドルは確実に国際通貨制度を変質させている。そして、世界経済で新興国プレゼンスが向上していると同様に、国際通貨体制においても健全な経済・通貨運営を行う主要国の通貨は活用されていく方向ということができそうだ。

 なお、円だが、深刻な財政赤字に見られるようにまともな経済運営ができない日本の現状から見れば、枢要な地位につくことは考えられない。むしろ、経済均衡化に向けてのガイドラインが設定されれば、日本としてその達成に注力しなければならないのが精一杯のところで、余裕を以って円の価値向上に注力できるとは思えない。

 日本は経済規模で中国に抜かれたが、このままでは円の国際化も進まず、将来的には世界で存在感を発揮するアジア通貨から円が脱落し、人民元が取って代わる可能性も十分にある。経済活性化とあわせて国際通貨としての円の地位維持にも努力が必要となりつつある。


新着記事

»もっと見る