2024年4月20日(土)

中島恵の「中国最新トレンド事情」

2018年5月15日

 同図書館によると、現在閲覧できる本は約17万冊。最大で135万冊まで収蔵できるという。学生が勉強したり、本を読んだりしている学習区や、貸出エリアなども含め、すべてのフロアを見学してみたが、まだ本棚にはかなりの余裕があり、これから本を収める準備中といった雰囲気だった。友人によると、中国の身分証があれば、天津市民でなくても本を借りることができるという。試しに図書館専用の貸し出し画面を使って利用してもらったが、係員が不在でも、一人で操作できるシステムになっていて、貸出し操作は1分ほどで簡単に終わった。中国では無人でもスマホ決済できるところが増えているが、図書の貸し出しもスタッフ不要でできるようになってきている。

「文化の発信地」として

 おもしろかったのは図書館のデータがスクリーンに映し出され、一目でわかるようになっていたこと。見てみると、その日の利用者数(私が訪れたのは日曜日の14時頃だったが、すでに3673人が利用しており、しかも利用の時間帯まで表示されていた)、閲覧図書のランキング、図書館のSNSのファン数などが表示されていた。ちょうど4月に「全国国民閲読調査」(読書量調査)が発表されたばかりだったが、それによると、17年の成人(18歳以上)一人あたりの読書量(紙の本)は4.66冊で前年とほぼ横バイであることがわかった。スマホ依存症といわれる中国人だが、まだ紙の本も手にしているのだ。

図書貸し出し数や人気ランキングなどが表示されている
習近平国家主席の本

 そんな一角に、とくに目を引くエリアがあった。習近平国家主席に関連する本がずらっと並べられていたのだ。「十九大専題図書推荐」(中国共産党第19回全国代表大会をテーマにした推薦図書)として『習近平 談治国理政』、『十九大精神十三講』、『平易近人 習近平的語言力量』などの本が並べられていた。同じ本が大量に並べられていることに少し違和感を覚えたが、友人も同感だったようだ。ここで本を立ち読みしている人は見かけなかった。全体的に、地元の若者や観光客が多く、図書館で勉強したり、本を探している人が半分、物見遊山の人が半分、といった感じだった。日曜日なので、通常よりも観光客が多かったのかもしれない。

 この図書館を訪れた後、中国の友人たちに聞いてみると、天津だけでなく、広州などにも巨大でインスタ映えする図書館が次々と出現しているという。広州図書館の延床面積は天津の約3倍の約10万平方メートル。収蔵冊数も約400万冊といわれ、1日1万人以上が利用している。設計は日本の日建設計。こちらも見物がてら、訪れる人が増えているようだ。もはや中国の巨大で奇抜な建造物には驚かなくなったという日本人は多いと思うが、スケールや奇抜さを“売り”にして一時的に注目を集めるだけでなく、設計やデザインに凝り、文化の発信地になろうとしている図書館が増えてきているのは、中国のひとつの変化だといえる。

 最初はインスタ映え目当てであっても、文化的なスポットに人々が関心を寄せ、そこに集まってくることは悪いことではない。次に天津を訪れるときには、はりぼての絵も、本物の本に変わっているのかもしれない。それくらい、中国の変化は速いのだ。

  
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