世界の記述

2018年5月16日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 オランダで、高齢者の「孤独問題」がクローズアップされている。人口1708万の同国で、75歳以上の男女約70万人が「孤独を感じている」という。

(iStock.com/NADOFOTOS)

 欧州連合(EU)統計局が昨年行った「孤独者指数」調査によると、EU加盟国の中で、イタリアとルクセンブルクが最も深刻な数値を表したが、特にオランダの急増率が注目された。保健・福祉・スポーツ省(以下、保健省)は、「助けを求められない」「話す相手がいない」という高齢者の孤独者数が、2030年には110万人に達する見込みと発表した。

 年々増加する孤独問題の打開策として、政府は今年2月、2600万ユーロ(約33億8000万円)を投資した。その使い道は、主に3つ。①新聞やネットで「孤独問題」の広告を打ち出し、意識改革と草の根運動を広げる、②小中学生による高齢者の自宅訪問を推進し、お茶会、買い物、スポーツ観戦などを楽しむ、③専門家による孤独度チェックを公共の場や高齢者宅で行う、といった広範囲の活動が計画されている。

 中には、VRゴーグルを提供し、疑似体験させることで孤独感を解消させる試みや、街中の無線LANで会話仲間を呼び寄せる「ウォーキングWiFi」の提供など、最新技術を用いた活動も一部の地域では始まっている。

 保健省のアクセル・デイス広報担当は、「小中学生は、自主的に高齢者宅に足を運ぶようになっている。独居の老人たちを集めて食事会を開いたり、おめかし会をしたりする企業も増えている」と説明した。

 国立高齢者基金のコリーナ・ヒルベール代表は、「一人暮らしは自分のせいだと思っている老人が多い。孤独を感じさせない政府のキャンペーンはすばらしい」と語った。

 しかし、高齢者の保護に力を入れる傍ら、オランダは、孤独な老人たちが「自己決定」で死を選べる安楽死も容認している。デイス広報担当は、「孤独問題と安楽死はまったく別物です。安楽死は、回復の見込みがなく、耐えがたい痛みのある病が対象です」と関係性をためらわずに否定した。だが、実態は不透明な部分が多い。

 今や世界共通語になった「コドクシ」。年間3万人の犠牲者を生む日本にとって、オランダの早期投資・防止対策は、目を見張るものがある。

 独居者が孤独を感じるか否かは、地域の意識改革と草の根運動が鍵を握るのは間違いない。

  
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◆Wedge2018年5月号より

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