2024年4月20日(土)

変わる、キャリア教育

2018年5月14日

生涯学習意識がなかなか定着しない日本

 ではそんな時代の中で、キャリア教育における評価をどのように考えていけばよいのだろうか。スウェーデンの経済学者であるレーンが提唱した「リカレント教育」という概念にそのヒントがあるように思う。義務教育や学校教育を終え、社会に出て働き出したあとも本人が求めれば教育機関に戻って学ぶことができる教育システムを指し、日本でも昨今大変話題になっている。社会人を受け入れるために夜間や土曜日に授業を行うような大学も増えているし、放送大学もサテライト講義などを拡張している。実は日本においては、「生涯学習」という言葉を用いて、それを拡げていこうとする動きは古くからある。1988年に文部省(当時)に生涯学習局ができ、生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律(生涯学習振興法)が成立したのはなんと1990年である。

 施行から30年近くたって、この動きが日本で再燃しているということは、改めて生涯学び続けることや働き始めてからの学び直しが、時代の変化の中で喫緊の課題として浮き上がっているということを意味している。しかしOECDの調査(Education at a Glance(2016))によると、高等教育機関(4年制大学)への25歳以上の入学者割合でOECD平均約17%に対して日本は約2%。30歳以上の「修士」課程への入学者の割合では、OECD平均約29%に対して、日本約14%。もちろん大学にいくだけが学び直しではないが、日本における生涯学習意識の非定着を表している一つの数値と言えるだろう。

 この事実をどうとらえるべきなのか。

 生涯学習振興法の第1条の目的にはこのように書いてある。

この法律は、国民が生涯にわたって学習する機会があまねく求められている状況にかんがみ、生涯学習の振興に資するための都道府県の事業に関しその推進体制の整備その他の必要な事項を定め、及び特定の地区において生涯学習に係る機会の総合的な提供を促進するための措置について定めるとともに、都道府県生涯学習審議会の事務について定める等の措置を講ずることにより、生涯学習の振興のための施策の推進体制及び地域における生涯学習に係る機会の整備を図り、もって生涯学習の振興に寄与することを目的とする。

 つまり、生涯学習振興法は生涯学習を提供する機会を担保することを目的とした法律なのである。そしてこれから、経済産業省も旗を振って、社会人が学び直しやすいように、企業の制度や社会の仕組みの設計が促進されていくのかも知れない。

「もっと学びたい」という意欲こそが重要

 しかし何よりも重要なのは、個人の「学びたい」という意欲をどのように醸成するかということではないだろうか。もちろん昇進や昇格にむけて資格取得が必要となる場合などは否応なく学びの意欲が生まれるだろう。しかしこれからの変化が激しい時代を生きていくうえではそうしたスキルや資格だけではなく、自分の価値観や考え方を刷新していくこと、例えばそのために教養や古典に触れたりすることも大切になっていくだろう。しかしそのほとんどは、すぐには身にならないことのための学びとなる。だからこそそうした学びに向かうために、「学ぶことへの純粋な喜び」を知り、「もっと学びたい」という気持ちを若いうちに醸成しておくことが効果的なのではないだろうか。

 それはつまり「学びとの出会い」をポジティブなものとして届ける必要があるということだ。第2回で紹介した企業と連携したキャリア教育プログラムであるクエストエデュケーションを受講し、全国から選ばれた生徒が発表するクエストカップには参加できなかった生徒がこのようなことを言っていた。

 「僕たちはグランプリをとるためにやっているわけじゃないんだと気づきました。探求することがなによりも楽しい。この授業を受けてから、世界を見る目が変わりました。だからもっと学びたい。それだけです」。


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