オトナの教養 週末の一冊

2018年5月11日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――軍を握る人が中国のリーダーであるとのことですが、その流れは鄧小平以降も続いているのでしょうか?

『中国はなぜ軍拡を続けるのか』(阿南友亮、新潮社)

阿南:はい。今日まで続いております。毛沢東や鄧小平は、もともと政治委員(政治将校)として軍隊の運営に深く関わり、戦場で軍の将兵とともに幾度となく死線をくぐりぬけた経験を持っており、そうした経験をつうじて培った軍内の人脈を利用して軍を掌握しておりました。ところが、89年に鄧小平の後を継いで中央軍委主席に就任した江沢民には、そうした軍歴が一切ありませんでした。

 そこでどうしたかといえば、江沢民は、軍の支持を得るために、軍の重鎮たちの要求に応える形で国防費を毎年10%以上増やすようになりました。国防費の増額は、給与の大幅アップ、職場・居住環境の改善、福利厚生の充実といった形で解放軍の将兵(特に高級幹部)とその家族に大きな恩恵をもたらしました。江沢民は、鄧小平時代に大幅に削減された国防費を増額することによって解放軍に恩恵を与え、それと引き換えに解放軍からの支持を獲得し、その支持を重要な基盤として党内で発言力を強めたのです。

 江沢民の後を継いだ胡錦濤も軍歴はありませんでした。彼が対外協調的な外交方針を掲げつつも、軍に投入する予算をほぼ毎年10%づつ増やし続けた背景には、江沢民と同様の事情があったと考えられます。要するに、軍歴のない共産党の指導者たちは、解放軍とギブ・アンド・テイクの関係(共生関係)を築くことによって、その地位を固めたといえるのです。このように、中国の国防費は、政権維持のためのコストという側面も持っているのです。

――習近平も軍歴はないのでしょうか?

阿南:大物軍人の秘書をしていた時期もありますが、それを軍歴と呼ぶかどうかは難しいところですね。それよりも彼の場合は、父親が毛沢東や鄧小平と同じく解放軍の大物政治委員として活躍した習仲勲であることが軍との関係構築において有利に働いていると考えられます。

 習仲勲は内戦期に政治委員として、彭徳懐という解放軍史上最強の元帥を補佐しておりました。しかし、その彭徳懐が1950年代末に毛沢東と衝突して失脚すると習仲勲も連座する形で失脚いたしました。その際、彭徳懐の副官だった張宗遜という将軍も失脚しますが、その息子が現在中央軍委副主席として主席の習近平を補佐している張又侠なのです。つまり、習近平は、父親が解放軍のリスペクトを得た人物であり、なおかつ、現在の解放軍の大物将軍が父親の戦友の息子なので、江沢民や胡錦濤よりも軍との距離が近く、軍とのパイプも太いといえるのです。彼が江沢民や胡錦濤よりも中央集権的な権力を掌握しつつあることを論じる際には、こうした点を無視することはできません。

――その習近平は演説で解放軍に対し、戦争に備えよといった発言をしました。

阿南:確かに、そのような発言を繰り返していますね。あれは、一見非常に好戦的な姿勢を示すものに見えますが、解放軍の内情を見ると、違った解釈をすることもできます。近年、解放軍では汚職が極めて深刻な問題となっており、中央軍委に名を連ねるような大物将軍が相次いで汚職で検挙されています。鄧小平が80年代に国防費の削減に着手した際、解放軍は自ら企業を設立してビジネスに着手することを奨励されたのですが、それ以降、解放軍内では拝金主義がはびこり、今日までその問題に効果的な処方箋が見つからない状況が続いております。共産党政権の背骨である解放軍の腐敗は、政権の命運を左右しかねない。ですから、あの発言は「金儲けにばかり精を出さず、本業である軍事をしっかりやれ」というメッセージとも解釈することができるのです。

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