オトナの教養 週末の一冊

2018年5月11日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――習近平が、国家主席の任期を撤廃し、毛沢東以来の個人独裁体制の再来かなどと指摘されていますが、これについてはどうお考えですか?

阿南:習近平の地位を占ううえで、昨年開催された共産党の第19回全国代表大会における中央軍事委員会の人事は重要な試金石となりました。なぜなら、共産党では、江沢民政権以降、次期最高指導者の候補者を中央軍委の副主席に任命し、最低でも5年間の見習をさせてから、中央軍委主席に就かせるという慣行が続いてきたからです。国家主席と党総書記の2期目を迎えた習近平の後継者は誰になるのか?それはどの文民党員が中央軍委の副主席になるかによって判明するはずでした。

 ところが、19回党大会では、中央軍委副主席に文民党員が指名されませんでした。その時点で習近平が国家主席・党総書記としての2期目が終了した後も中央軍委主席の椅子に座り続けるというシナリオが浮上しました。繰り返しになりますが、中国では国家主席や党総書記ではなく中央軍委主席こそが最も重要な権力の源泉ですので、仮に習近平が5年後に国家主席や党総書記を辞めても中央軍委主席を辞めない限り、中国の最高指導者として君臨し続けることになります。

 かつて鄧小平がそのようなスタイルをとっておりました。したがって、習近平もそれに倣うのかと思っていたのですが、今年3月の全人代で国家主席の任期撤廃が決まったので、習近平は国家主席の地位も手放す気はないとうことが明らかになりました。これは、共産党のこれまでの歴史に鑑みると、非常に憂慮すべき動きです。

 そもそも任期制や定年制が導入されたのは、毛沢東の個人独裁がもたらした大混乱と惨禍を繰り返さないという反省に基づいたものでした。権力にキャップをかけるための任期制・定年制は鄧小平時代に整備され、江沢民政権と胡錦濤政権をつうじて守られてきました。ところが、習近平は、権力のキャップを外し、毛沢東時代の個人独裁に逆戻りし、カリスマ支配の確立を目指しているように見えます。そうした動きに対しては世界中の中国研究者から懸念の声があがっております。

――中国は覇権国家を目指しているのではないかという指摘もあります。

阿南:中国が経済や軍事などさまざまな指標で台頭し、やがて米国に挑戦するのではないかという指摘はかなり前からありました。しかし、現在の中国を見れば、多くの高級幹部が相次いで失脚していることからも分かるように、共産党内部で激しい権力闘争が続いており、経済発展に伴う貧富の格差拡大などを原因として共産党に対する社会の不満も高止りの状況にあります。

 中国共産党は、党の内外に多くの問題を抱えたまま経済発展が鈍化する局面を迎えつつあり、その苦境をどうもカリスマ支配でなんとか乗り切ろうとしているようにみえるわけですが、そうなると、将来米国に挑戦するか否かという問題以前に、中国と日米欧は現在の関係を維持していけるのかという問題の方が差し迫った問題となります。なぜなら、日米欧は、個人独裁の混乱を克服したはずの中国と経済関係を含めた協力関係を築いてきたのであって、その中国が個人独裁に戻るのなら、日米欧の対中政策の前提が大きく崩れることになるからです。その結果として、日米欧と中国との関係が不安定化し、それが経済関係にも波及すれば、中国国内は覇権国家を目指すどころの騒ぎではなくなります。

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