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2018年5月11日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

米メディアも支持

 もちろん、実際に金正恩に授与されるかどうかを、10月の発表時前に予測するのは禁物だ。しかし、かりに、それがなかったとしても、ブックメーカーの予想にみられるように、この人物がふさわしいと感じ、投票する人がすでに多数にのぼっていること自体、大いに警戒すべきことだろう。

 米国のブルームバーグ通信は南北首脳会談が行われた4月27日の電子版で、「金とトランプの平和賞は冗談ではない」という記事を掲載。米朝首脳会談が南北会談のように順調に進み、朝鮮半島の平和が回復されたなら、両者にはその価値がある」と授賞を支持。「平和が実現できたなら英雄だ」と、最高の表現で期待感を表明した。米国のメディアとはにわかに信じがたい甘い分析といわざるを得ない。

 驚かされたのは、これだけではない。5月初めに韓国で発表されたコリア・リサーチ・センターの世論調査結果によると、国民の78%が金正恩を「信頼できる」と感じているという。この1カ月前に行われた別な世論調査では、金正恩を肯定的に感じていた人はわずか10%にとどまっていた。金正恩のソフトな雰囲気を印象付けた南北首脳会談の効果とみるべきだろう。

 世界の多くの支持を受け、米国の主要メディアがここまで持ち上げてくれれば、金正恩にとって、受賞実現に近い効果をもたらすだろう。四面楚歌だったこれまでとは一転、国際世論を多少とも味方につけることができるのは、北朝鮮にとっては願ってもない展開だ。

政治色強い「平和賞」 

 ノーベル平和賞はノルウェーのノーベル委員会が各国からの推薦に基づいて受賞者を決める。賞の性格上、政治色が反映されることが少なくないため、しばしば物議を醸す。

 民主化促進など反体制活動家らの場合、その国の政府が反発する。

 古いところでは旧ソ連の人権活動家、アンドレイ・サハロフ博士(1975年受賞)、近いところでは、中国で熱心に人権問題に取り組んできた故劉暁波氏(2010年受賞)らだ。サハロフ氏の場合、授賞式には妻が代理で出席したが、劉氏は身柄拘束中で代理出席もかなわなかった。

 国際紛争がからむ場合は、主張が異なる人たちからの批判が出る。授賞そのものがふさわしかったのかという指摘も長年にわたってなされることがある。

 韓国の金大中大統領の場合、後年になって、会談実現に絡んで多額の資金を北朝鮮に提供、受賞のための周到な根回しをしていたという疑惑が持ち上がり、韓国初のノーベル賞受賞に影を落とした。

 日本の故佐藤栄作元首相は、わが国の国是となっている「非核3原則」を政策として導入した功績が評価された(1974年受賞)。その後、核持ち込み密約疑惑が明るみに出たこともあって、欧州の一部メディアで、授賞の是非を論じられたことがある。

 ベトナム戦争の平和協定調印の功績で、1973年に、米国のキッシンジャー国務長官と北ベトナムのレ・ドク・ト・ベトナム共産党政治局員(いずれも当時)が共同受賞(レ・ドク・トは辞退)した。しかし、その後も戦火は収まることはなく、結局、75年になって北ベトナムが武力統一、ベトナム社会主義共和国が誕生した。こうなると、あの平和賞は何だったのだという疑問が巻き起こるのは当然だった。

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