「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2018年5月14日

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小宮信夫 (こみや・のぶお)

立正大学文学部教授

立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。
警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。
代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。
公式ホームページは、「小宮信夫の犯罪学の部屋」http://www.nobuokomiya.com

 しかし、多くの誘拐犯は、犯行は発覚しないと信じ切っている。というのは、彼らは、連れ去った後、性的行為を犯すものの性犯罪だと感づかれない程度にとどめ、女児が被害に気づく前に解放するつもりだからだ。

 殺害事件でも、誘拐当初から殺害目的があるケースは少数である。例えば、2004年に、奈良市で下校中の女児が誘拐され、殺害された事件では、自宅に連れてきてから宿題を手伝ったりしていたが、浴室内で抵抗されたため、カッとなって水死させたという。

 また2011年に、熊本市のスーパーマーケットで女児が殺害された事件では、防犯カメラが10台も設置されていたにもかかわらず、店内で4時間物色していた犯人が女児を多目的トイレに連れ込んだ。その後、トイレの外から女児を捜す声が聞こえ、ドアをノックされたため、パニックに陥った犯人が、女児の口をふさぎ、首を圧迫し、窒息死させてしまった。

 こうした、犯行がバレないと思っている自信家には、防犯カメラの脅しは通用しない。

 身を隠しながら、待ち伏せや物色するのであれば、空き家が好都合である。連れ込む場所や秘密裏に会う場所としても使える。写真3は被害女児の自宅近くの生活道路。右側に見えるのは、空き家化している社員寮だ。

写真3

 この場所も、部屋まで難なく入れるので「入りやすい場所」である。もっとも、寮に通じる道路の入り口にロープが張られていれば「入りにくい場所」になるのだが、現状は、残念ながら張られていない。

子どもとのコンタクトポイント

 こうして、物色段階が完了した犯罪者は、次に接触の段階へと移る。路上誘拐の場合には、公園や駐車場からの連れ去りと異なり、接触段階へと移る過程で尾行が必要になる。もっとも、尾行するだけでは逮捕されないので、犯罪者は安心してターゲットについて行く。その間、犯罪者は景色を観察しながら、どこならだれからも目撃されずに接触できるかを探っている。

 車の中で待ち伏せしていた場合には、そのまま車で尾行するか、車から降りて歩いて尾行することになる。2014年に、埼玉県朝霞市で下校中の少女を連れ去った犯人は車で尾行し、同年、神戸市長田区で自宅近くの路上を偶然歩いていた女児を連れ去った犯人は徒歩で尾行していた。

 尾行中に犯罪者が「入りやすく見えにくい場所」を発見すると、そこがコンタクトポイントになる。2013年に、三重県朝日町でスーパーから徒歩で少女を尾行し窒息死させた犯人が背後から襲ったのは、殺害現場となった空き地に「入りやすく」、周囲に畑や草むらが広がる「見えにくい」道路だった。また2004年に、奈良市で下校中の女児を尾行し水死させた犯人が女児に声をかけたのは、植え込みが途切れた歩道、つまり女児が簡単に車に乗り込める「入りやすい場所」、そして道の両側に一軒家がない「見えにくい場所」だった。

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