「犯罪機会論」で読み解くあの事件

2018年5月14日

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小宮信夫 (こみや・のぶお)

立正大学文学部教授

立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。
警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。
代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。
公式ホームページは、「小宮信夫の犯罪学の部屋」http://www.nobuokomiya.com

 写真4と写真5は、今回の被害女児が下校時に友達と別れた踏切付近から、自宅へと向かう線路沿いの生活道路である。

写真4
写真5

 この道は、ガードレールがない「入りやすい場所」だ。車を使った犯罪者なら、この景色を見て、「だますにしろ、拉致するにしろ、車に乗せるのは容易だ」と思うに違いない。幹線道路に近い「入りやすい場所」でもあるので、誘拐した後、「あっという間に遠くへ逃げられる」とさえ思うかもしれない。

 またこの道は、人の視線が届かない「見えにくい場所」だ。写真の右側は、線路が続き、その敷地の幅の分、線路沿いの住宅の窓が遠ざかっている。写真の左側には住宅があるが、高い塀や生垣、シャッターや擁壁といった、窓からの自然な視線を路上に届きにくくする工作物がある。車を使った犯罪者も、歩きの犯罪者も、この景色を見れば、「だますにしろ、拉致するにしろ、犯行の一部始終が目撃されることはない」と考えるだろう。

 唯一、犯罪者が気にするとしたら、写真4の真ん中に見える、赤い屋根の家の窓だ。しかし、気にすべき景色が1カ所であれば、犯罪者はそれほど脅威には感じない。なぜなら、子どもに近づく直前に、こちらを見ているかどうかを最終確認できるからだ。2007年に、兵庫県加古川市で女児が自宅前で刺殺された事件でも、最終確認しなければならなかったのは、現場前の住宅の窓だけだった。

 これに対して、気にすべき景色が2カ所ある場合には、同時に最終確認できないので、犯行の着手を躊躇せざるを得ない。ただし、写真5の景色のように、犯罪者にとって気になるのが、正面と背面の道にいる車や人だけなら、その道の見通しがよければよいほど、驚異にはならない。近づいてくる人の有無を、はるか手前から確認できるからだ。

日本の防犯常識は世界の非常識

 ここで注意していただきたいのは、この線路沿いの生活道路について、「死角があるから危険」「人通りがないから危険」「街灯が暗い危険」といった意見があるが、いずれも不適切・不正確と言わざるを得ないことだ。

 まず、「死角」がなくても危険な場所は多くある。1990年に、新潟県三条市で下校途中に誘拐された女児が、同県柏崎市で9年にわたって犯人宅に監禁された事件では、見晴らしがいい田んぼ道が連れ去り現場だった。今回の事件でも、線路敷地は、死角にならない場所である。

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