イノベーションの風を読む

2018年5月16日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

変革へのモチベーション

 ソフトウェアが世界を呑み込む時代に、メーカーが生き残るために必要なたった一つのことは、変革へのモチベーションだ。スタートアップは、世界を変えるというモチベーションが、その成立の要件になっている。メーカーに、それに呼応する変革へのモチベーションがなければ何も始まらない。しかし、そのモチベーションがいちばんの問題だろう。

 目先の株主利益しか見えない近視眼的な米国式経営、コンサルが持ち込んだ不完全な成果主義の人事制度、残業時間だけを問題視するアンバランスなワークライフバランス、そしてセキュリティやコンプライアンスの監視下での事なかれ主義の蔓延など、日本のメーカー(大企業)において、変革へのモチベーションをそぐ要因を挙げればきりがない。

 しかし、その状況においても、変革へのモチベーションを持ち続ける人材が隠れているはずだ。そのモチベーションは他者から動機付けられたものではない。それによって、やるべきと信じることに真剣に取り組む姿勢を保ち、そのために大いなる好奇心を持って必要な専門知識を習得する努力を続けることができる。

 ディスラプション(創造のための破壊)を伴う変革を主導する人材を、外部に求めるのは安易に過ぎる。それは、社内に余計な軋轢が生じるからという理由だけではない。たとえ、有名なIT企業で幹部を務めたなどの輝かしい経歴があっても、必ずしも自らが変革を起こした経験を持つわけではなく、変革の後の成長のためのオペレーションに従事しただけのことが多い。変革は、オペレーショナル・エクセレンスの方法論で起こすことはできない。

 メーカーのトップは最上階の役員室から出て、変革の可能性を毎日のように考えている人材を見つけ出さなければならない。そこに上がってくることができるホワイトカラーに、変革へのモチベーションはないだろう。

 ソフトウェアについての深い理解があり、世界のスタートアップの動向に興味を持ち、そして誠実で、自社の製品の可能性を信じている人材が必要だ。そのような人材の変革へのモチベーションが、スタートアップの「世界を変える」というモチベーションと呼応して物事を動かす。いずれ、ホワイトカラーを呑み込むはずのAIも、変革へのモチベーションを持つことはできない。

  
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