世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年5月22日

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 トランプ米大統領は、大統領選の時から一貫してイラン核合意に強く反対してきたが、5月8日、同合意より米国が離脱することを表明、対イラン制裁を再開する大統領令に署名した。

(iStock.com/DutchScenery/Harvepino/taviphoto/Bosphorus/bananajazz)

 イラン核合意は、2015年に米国、英国、フランス、ロシア、中国、ドイツ(P5+1)とイランとの間で合意されたもので、おおよそ次のような内容である。イラン側は、濃縮ウランの貯蔵量・遠心分離機の数の削減、兵器級プルトニウム製造の禁止、査察の受け入れ・透明性強化などにより、合意の履行後、約10年にわたりブレイクアウト・タイム(核兵器1発を製造するのに必要な核物質を獲得するのに要する時間)を1年以上に保つ。ただし、10~15年後には制限が解除される(サンセット条項)。これに対し、P5+1側は、安保理決議に基づく制裁を解除、米EU等によるイランの核開発に対する独自制裁を停止・解除する。イラン核合意は、国連安保理決議2231が、これを国際合意として承認しており、正統性の高いものである。

 トランプ大統領は、離脱に際しての演説でも述べているように、イラン核合意について、イランはテロ支援国家である、イラン核合意はイランの弾道ミサイル開発を止められない、サンセット条項は受け入れられない、などの点を厳しく非難し、イランの核開発を止められない、と断じている。

 しかし、イランが核合意を順守していることについては、IAEA等も認めている。トランプ自身、議会に対して、これまで、イランによる不遵守はない、と報告してきた。確かにイラン核合意はトランプが言うように、イランのテロ支援、地域への悪影響、弾道ミサイル開発を阻止できていないが、イランの核保有という最悪の事態だけは回避させてきた。次善の策として、核開発の阻止という一点に絞ったからこそ、辛うじて合意できたというべきであろう。トランプの主張は、安保理決議の承認を得た国際合意からの離脱を正当化できるものではない。フランスのマクロン大統領、ドイツのメルケル首相は、直前に訪米して米国のイラン核合意への残留を求めていた。英仏独が共同で遺憾の意を表明したのは当然である。離脱は国際的約束よりも選挙公約を優先したということであり、米国の国家としての信用を失墜させるものである。

 イランは欧州など外国企業からの投資を期待して、当面は米国を除く5か国との間で核合意の存続を協議するとしているが、一方でウラン濃縮の選択肢も留保している。イランには、米国が合意を離脱する以前から、外国の投資が期待したほど増えおらず、経済的利益に繋がっていないとの不満がある。米国の離脱、制裁再開は、イランに投資しようとする欧州や日本の企業も標的にする可能性を意味する。それにより制裁解除の効果がなくなれば、合意を支持してきたロウハニ大統領に打撃となり、イランが合意に残留する理由も薄れる。したがって、イランの核開発が再開されるリスクが高まることになる。イランのラリジャニ国会議長は、合意存続の協議がまとまらなかった場合は、核開発の再開により米国に対抗すると述べている。

 イランが核開発を再開するようなことがあれば、中東で核開発のドミノが起こるリスクが高い。サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は既に、イランが原子爆弾を製造すればサウジも同様の措置により対抗すると明言しているし、トルコ、エジプトなどにも核開発が連鎖する可能性がある。中東のような不安定な地域で核開発が行われることは、核不拡散体制を根底から覆しかねない。米国のイラン核合意からの離脱の決定は、それほど深刻なことである。
 

  
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