中東を読み解く

2018年5月16日

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 トランプ大統領が5月14日、聖地エルサレムへの米大使館移転に踏み切り、パレスチナ自治区ガザで抗議行動が拡大。イスラエル軍の発砲で58人が死亡、約2700人が負傷する惨事となった。今回の事態の引き金になったのはエルサレムをイスラエルの首都と認定した大統領の決定だ。いたずらに人が死んでいくパレスチナにもはや未来はないのか。

催涙ガスにまかれるパレスチナの人々(Photo by Spencer Platt/Getty Images)

“欺瞞の平和”

 それにしてもこの日、同時進行的に展開された2つのシーンほど際立つものはないだろう。ガザの「虐殺」(アッバス自治政府議長)と、エルサレムでの米大使館開設式だ。殺戮の現場と式典会場は車でわずか1時間の距離。怒号と銃弾、催涙ガスの煙が充満するガザと、笑みと移転の満足感に溢れ、「ハレルヤ」を合唱する式典との大きな乖離に愕然とする。

 ガザとイスラエルとの境界は鉄条網のフェンスで隔てられているが、ガザを実行支配するイスラム組織ハマスの呼び掛けで約4万人が境界付近の抗議デモに参加。5カ所でデモの参加者がフェンスを乗り越え、イスラエル側に入ろうした。

 このため、厳戒態勢を敷くイスラエル軍や多数の無人機が催涙弾などを発射。一部では軍のスナイパーが実弾でパレスチナ人を射殺した。米メディアなどによると、ガザのモスクの尖塔の拡声器からイスラエル側への突入の呼び掛けが行われ、これに触発されたパレスチナ人がフェンスに突進した、という。

 さらに「フェンスが破られ、デモ隊がイスラエル側に殺到している」というデマ宣伝もあり、これがパレスチナ人の興奮を誘ったようだ。ハマス側がデモ隊に撤収を指示したのは犠牲者が50人を超えてからとされる。米、イスラエル両政府が住民をそそのかしたハマスに全責任があると非難しているのはこうした背景があるからだ。

 今回の抗議行動は元々、5月15日の「ナクバ」(大惨事)に向けてのもので、3月末から始まった。ナクバはパレスチナにとっては、1948年のイスラエル建国で約70万人のパレスチナ人が難民となった厄災の日だ。逆にイスラエルにとっては建国70周年の記念すべき日である。パレスチナ側の3月からの死者は110人を超えた。

 式典にはエルサレムの首都認定に反対する日本や欧州など主要国のほとんどが欠席。イスラエル側からネタニヤフ首相、米国からはトランプ氏の娘イバンカ氏、その夫のジャレッド・クシュナー上級顧問、サリバン国務副長官らが列席。イバンカ氏が除幕式を行った。

 列席者は口々に大使館移転後の平和への期待を表明した。トランプ氏がビデオメッセージで「恒久的な平和を推進していく」と述べたほか、「平和への一歩」(サリバン副長官)「平和は届くところにある」(クシュナー顧問)「平和に向けた偉大な日」(ネタニヤフ首相)―などと美辞麗句が並べ立てられた。

 しかし、実際には中東和平の見通しは自治区設置を導いた「オスロ合意」以前よりも悪い。エルサレムをイスラエルの首都に認定したことにパレスチナ側が反発、交渉を拒否している上、クシュナー氏が中心になってまとめている米国の和平案の提示すらできないでいる。

 ベイルート筋は「米国の案はサウジアラビアなども入れた多国間会議方式で解決を目指そうというものだが、目途は全くたっていない。彼らが口にする平和は“欺瞞”というしかない。トランプには戦略も展望もない」と厳しく指摘している。

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