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2018年5月17日

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バーバラ・プレット=アッシャー BBC米国務省担当特派員(ワシントン)

「我々の最大の望みは平和だ」。ドナルド・トランプ米大統領は、14日にエルサレムで行われた米国大使館の移転記念式典に寄せたビデオメッセージでこう語った。

しかし、ホワイトハウス代表団による演説の最初の一言は、米国の最優先事項を端的に示していた。「トランプ大統領は、約束を守る」。

トランプ氏は、在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移す決定を下した。なぜならトランプ氏は、自分の支持基盤に向けた選挙公約を守るのが好きだからだ。

大統領は、派手で大々的で歴史的な行動も好きだ。特に前任者たちが実現しなかったものなら、なおのこと。

トランプ流外交方針の原則は、今のところ上手くいっている。

今回の大使館移転については、トランプ氏の支持基盤も強硬に働きかけてきた。ユダヤ系米国人の右派もそこに含まれる。トランプ氏に最も近い側近は、保守的な正統派ユダヤ教徒だ。ユダヤ系右派勢力の主張は、大統領のそばにいる正統派ユダヤ教徒たちを通じて、増幅されて大統領の耳に届いたはずだ。

支持基盤には福音派キリスト教徒もいる。その声は、ホワイトハウス内の敬虔(けいけん)なキリスト教徒、マイク・ペンス副大統領を通じて強く伝わった。

「神は3000年以上前、ダビデ王の時代にエルサレムをイスラエルの首都と決めた」。米テキサス州ダラスの福音派牧師、ロバート・ジェフレス氏は、聖書の歴史を私に語った。ジェフレス氏や他のキリスト教世界の新イスラエル派指導者は、式典で祝福の祈りを捧げた。

では、和平交渉はどうなるのか

トランプ氏はビデオ演説で「永続的な和平協定の支援に米国は全力で取り組む」とも述べた。

大統領は「ほかの何より一番大変な取引」を解決したいと意欲を表明している。大使館のエルサレム移転にパレスチナ側は激怒しているが、それでもホワイトハウスは未だ、実現可能だと自認する和平協定の詳細構想を発表するつもりでいる。

構想の執筆者、トランプ氏の義理の息子ジャレッド・クシュナー氏とトランプ氏の弁護士ジェイソン・グリーンブラット氏は、現状に揺さぶりをかけることでパレスチナ人に厳しい現実を知らしめれば、自分たちの仕事がしやすくなると考えているようだ。複数の米政権で中東交渉担当者を務めたアーロン・デイビッド・ミラー氏は、こう指摘する。

さらに、米紙ニューヨーク・タイムズによると、クシュナー氏とグリーンブラット氏はパレスチナ人が、当初は衝撃を受けて激怒しても、最終的には奮起して交渉を再開するだろうと考えているのだという。しかし、今のところそうなっていない。

トランプ政権に言わせると、エルサレムをイスラエルの首都として認めるのは、明白な事実を認めるだけのことに過ぎず、エルサレムの最終的な境界線は今後の交渉で確定すれば良いだろうということになる。

しかしその一方で、トランプ氏はこの問題を「交渉から外す」とも述べているので、紛らわしい。そさらに大統領は、パレスチナが東エルサレムを将来の独立時に首都とするという主張について、まったくなにも触れていない。

なので真意はどうあれ、和平プロセスの最も難しい問題の1つでトランプ氏はイスラエル側に立ったようだ。このことは、あらゆる交渉の最終結果を偏らせてしまった。

大使館移転で紛争激化?

トランプ政権はガザ地区のイスラエルとの境界線で多数のパレスチナ人がイスラエル軍の発砲で死傷した問題についても、イスラエル側に立っている。

ホワイトハウスは、ガザ地区を実効支配するイスラム勢力ハマスの指導者が「恐ろしい政治宣伝」を企ててイスラエルを「意図的に、シニカルに」挑発していると非難した。しかし、欧州各国と異なり、イスラエル軍に自制を促しはしなかった。

イスラエルによるガザ地区の経済封鎖に不満を募らせるパレスチナ人は、ハマスの指導に応じて、数週間前から抗議行動を続けていた。

複数の専門家は、ハマスにとって今回の出来事は、自分たちの統治による不具合を責任転嫁する好機だと指摘する。

では、60人近くが死亡し2000人以上が負傷した今の事態が、「インティファーダ」と呼ばれる激しい運動の引き金となるのか。そしてそれは、ヨルダン川西岸へと飛び火するのか。それが目下の注目点だ。

米大使館のエルサレム移転決定それ自体は、インティファーダ再開のきっかけにはならなかった。ガザでの銃撃もそうはならないかもしれない。その理由はたくさんある。パレスチナ人指導者層の分裂は理由のひとつだ。あるいは、持続的紛争状態に戻ればパレスチナ人は重いコストを背負うことになるのも、インティファーダの再開を食い止めるかもしれない。

しかし状況は不安定だ。パレスチナ人の絶望感が燃料となり、対立はさらに拡大する可能性もある。

一線を越えたのか

今のところ、最もあり得る展開だと私が思うのは、和平交渉の緩慢な崩壊だ。過去25年にわたり続き、和平には達しないながらも全面戦争は食い止めてきた和平プロセス枠組みが、今までよりのろのろと崩壊していくのではないだろうか。

突発的な対立はたびたび起きたが、和平プロセスの枠組みは基礎的条件をある程度維持してきた。

イスラエルはヨルダン川西岸を併合していない。パレスチナ自治政府は治安維持に協力し続け、イスラエルによるパレスチナ人の取り締まりを実質的に支援している。

和平プロセス枠組みを仲介し、支えてきた米国は、中立とは言わないまでも信頼できると、広く受け止められてきた。

過去の米政権は全て親イスラエルだったが、パレスチナ側の主張を理解し、しかるべく対応しようと、ある程度は努力していたとミラー氏は言う。

それに対して現政権は、あまりにもイスラエル側の文脈内に「どっぷり深くはまっている」ため、一線を超えてしまった。ミラー氏はこう批判する。

だとすると、トランプ政権が和平プロセスの枠組みを支え続けるのは難しい。そして、予想できない展開につながる。

アラブの主要国は、イランに対抗するための同盟国としてイスラエルを取り込もうとしている。そのため確かに、以前よりパレスチナ人に不利な条件でも和平合意の受け入れに前向きのように見える。

しかし、エルサレムはイスラム教徒にとっても神聖な都市だ。そのエルサレムに対するトランプ氏の決定のせいで、アラブ諸国も身動きがとりにくくなっている。

(英語記事 Jerusalem embassy: Why Trump's move was not about peace

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44121374

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