Washington Files

2018年5月21日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。現在、神田外語グループ参与。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ大統領が鳴り物入りで取り組んできた政府スリム化のキャンペーンが、暗礁に乗り上げている。各省庁の300を超す重要ポストが政権発足1年以上たった今も、空席のままとなっており、このままでは内外政策の立案、遂行に支障をきたしかねない、といった懸念の声も聞こえる。

 「Drain the swamp!」(どぶさらいをしよう)--トランプ氏が大統領選挙期間中から遊説先で、巨大化した連邦政府官僚機構の大リストラをアピールする際に繰り返し使ってきたキャッチ・コピーだ。ホワイトハウス入りしてからも閣議やスタッフ・ミーティングなどで機会あるごとに、側近たちに同じ表現を使い選挙公約の周知徹底を指示してきた。

昨年アラバマ州で行われた上院選挙でも共和党候補者の支持者たちは「Drain the swamp」のメッセージを掲げた。しかし、選挙結果は番狂わせで民主党候補が勝利した (Photo by Joe Raedle/Getty Images)

 もともと、20世紀初頭、アメリカ各地でマラリアが蔓延した際に、地方ボスたちが元凶である蚊を絶滅させるのに沼地のどぶさらいを住民に徹底させるため使った言葉だったが、その後、政治家たちが聴衆受けするさまざまな公約を実現しようとする際に、その前に立ちはだかる野党や組織を攻撃するときなどにも好んで引用してきた。

 以前にもレーガン大統領が就任後まもなく、国民向け演説の中で「小さな政府」の実現を訴え、ブッシュ政権下でラムズフェルト国防長官が9・11テロ事件発生直後、イスラム過激主義思想を持った国内危険分子一掃の重要性を力説した際にも同じ表現が使われたことがあった。

 しかし、「Drain the swamp!」を執拗に繰り返し使ってきたのは、歴代大統領の中でもトランプ大統領が初めてだ。

 ワシントンポスト紙の報道によると、連邦政府および関連組織に勤務する職員は首都ワシントン、地方合わせ約280万人だが、このうち、トランプ政権発足以後、退職、辞職した人の数は「7万人超」にも達し、この中には信条、政治的立場の違いを理由に退職したり辞めざるを得なくなったスタッフたちも少なくない。

 アメリカでは政権交代のたびごとに人事面での大幅な入れ替えは珍しくないものの、トランプ政権下での辞職者数は、オバマ前政権時と比較しても「42%増」(PBS放送)となっており、格段に多い。

 このうち、とくに問題が顕在化しつつあるのが、新政権誕生で入れ替えが必要となった政府各省庁合わせ650近くの高級ポストだ。

 これらのポストの後任はホワイトハウスが任命し、議会承認が必要だが、いまだに未承認のままのポストが半数以上に上り、また、任命もされず空席のままのポストも200以上に達している。

 それぞれの空席ポストについては、たとえば「国務次官」の場合、「次官代理」、「次官補」の場合「次官補代理」などのように1ランク下の官僚を「代理」に据え当座をしのぐことができるが、内規により「300日間」の期限がつけられているため、現実に就任1年を経過したトランプ政権下で責任者が不在のままとなっている重要ポストも少なくない。

 たとえば、外交政策の中心的役割を担う国務省では現在、経理局長、EU(欧州連合)代表、国連各機関米国代表など57ポスト、国務次官補(局長相当)13ポストのほか、サウジアラビア、エジプト、ヨルダンなどの中東諸国含め世界186カ国に派遣すべき大使のうち62カ国の大使がいまだに空席のままだ。

 このほか、トランプ大統領がホワイトハウス入り前から重視してきた麻薬取り締まりの総元締めである国家麻薬規制政策局長、エネルギー省監査局長、内務省国立公園局長、魚類・野生動物局長などのポストも同様だ。

 こうした現状に対し、大統領自身はこれまで自らのツイッターで「我々は率先して穴埋めをしようとは思わない。彼らの多くは不必要。政府サイズを縮小しよう」と同調者たちに訴えかけるなど、あまり気にする様子もなく、むしろ、“どぶさらい”キャンペーンを正当化してきた。

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